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温泉旅館若旦那<鶴>奮闘記-2

大宴会場「鳳凰の座」で幹部達が煙草片手に血生臭い話を肴にして酒を飲み交わし、女中やその見習い、板前達が休む間もなく働いている頃。 「あぁぁ……っ、あ……っ」 若旦那の優生も中庭奥にある「篭もりや」が最も自慢とする離れ「月見の間」で自分自身の務めを果たしていた。 「鶴は来年で三十でしたか?」 「あ……っはい……一月で三十歳となりま、す……っ」 「まるで十代の肌ですね」 隅々まで瑞々しくて、触れれば指の腹によく馴染んで。 「四季がどれだけ巡っても鶴の肌にはあきだけが来ない」 和紙で覆われた間接照明がうっすら座敷を照らしていた。 「可愛い鶴、飛べない君は何よりもいとおしいですよ」 但馬が優生を抱くことはない。 彼は以前、その身に銃弾を受けており、後遺症のため勃起不全となっていた。 但馬は前もって己の代わりを呼ぶのだ。 『佐久真、来なさい』 「あんたの尻はいつも緩々だな、若旦那さん」 佐久真はシャツにスラックス、黒ずくめのまま、うっすら色づくサングラスも外さずに優生を犯す。 「誰かさんの、毎晩ここにくわえ込んでよがってんじゃねぇのか? なぁ?」 敷布団にしがみつく優生の尻を鷲掴みにし、痕が残るくらい指の先を柔肌に沈め、尻穴奥に欲深く埋めたペニスで肉巣を蹂躙する。 荒々しい獣ぶりで腰に腰を打ちつけては深部を亀頭で焦がす。 「ぁぁぁ……っぁぁぁーー……!!」 何かを探るように洗い立てのシーツの上をか細い五指が彷徨った。 涙する淡い双眸の先には悠然と同衾を眺める但馬がいた。 「感じやがって。淫乱が」 ほぼ露出された白磁の背中に佐久真はそう吐き捨てた。 湯煙が夜空に吸い込まれていく。 「はぁ…………」 大浴場の露天風呂に入っていた優生はため息をついた。 純粋に今日一日の疲れを現しただけのもの。 但馬との世にも不可解な関係は十代の頃から始まっており、今更「穢された」「もう嫌だ」と思うことは一切なかった。 虫の鳴き声が聞こえる、常緑樹に囲まれて清々しい空気に満ちた夜、湯に半身を浸からせた優生はもう一度息をついた。 「…………はぁ」 「お疲れだな、優生」 びっくりして優生は振り返った。 大浴場と露天を繋ぐガラス戸を音もなく開け、気配もなしにすぐ背後へ迫っていた彼を仰ぎ見た。 「貴方こそお疲れ様です」 頬に刃傷痕のある佐久真は緩やかに笑った。 優生が佐久真に出会ったのは小学生の頃だった。 『かわいいおぼっちゃんですね』 二十歳過ぎだった彼はすでに但馬の背後に控えていた。 鋭い目つきをした、金髪や茶髪の舎弟が殆どの中、一人だけ黒髪だった青年。 『やるよ、これ』 温泉街の駄菓子屋で買ったという飴玉をくれた佐久真のことを、優生は、誰よりも優しい人だと思った。

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