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温泉旅館若旦那<鶴>奮闘記-3
「あ……っ佐久真さん……」
湯の熱に快楽の火照りが混ざり合い、体の芯が蕩けてしまいそうな夢見心地に優生は陶然と溺れる。
「お前、どんどん綺麗になっていくな、優生」
露天風呂の片隅、湯船の底であぐらをかいた自分に向かい合って跨る優生を見つめ、佐久真はぽつりと呟く。
その雄々しいペニスは優生の柔尻の狭間に深く迎え入れられていた。
先ほどよりも密に蠢く肉巣で根元まで熱せられている。
「あ……本当はこんなこと……いけないのに……」
湯を弾く逞しい肩にしがみつき、硬質の肌に片頬を押し当て、優生は台詞の内容と反対に腰を揺らめかせる。
湯面に波紋が広がった。
「酒の入った幹部ら連中は風呂なんざ入らねぇよ……発作がおっかねぇ年頃だからな。こっちの人間に見られる心配は無用だ」
旅館の従業員達は「銀龍会」お泊まりの日は心身ともに疲れ果て、わざわざ湯に浸かりにくることもなくさっさと就寝する。
「湯が汚れないようにしてやるよ、優生?」
「……お願いします、佐久真さん……」
但馬にも誰にも秘密の関係。
父と母の墓前にも告げたことのない恋人。
「どこでほしい……? この辺か?」
優生の腰を支えた佐久真が奥を突き上げてくる。
「あ……はい、そこ……っ奥にして……? 私のなか……っ佐久真さんのでいっぱいにしてください……っ」
ぱしゃぱしゃと湯面がうるさく騒いだ。
優生はぎゅっと佐久真に抱きつく。
艶やかな刺青踊る背中に爪を立てた。
「…………あ…………」
愛しい男の欠片で満たされた肉巣の震えに、優生は、甘い悲鳴を零した。
「銀龍会」幹部のために用意していた部屋のつ「楓見の間」で。
優生は佐久真と密かに愛し合う。
雑に敷いた布団の上で熱もつ肌を求め合う。
「あ……んぅ……あ……いい……っ」
仰向けとなった佐久真に跨り、後ろ手に両手を突いた優生は悩ましげに腰をくねらせた。
すでに今夜何度目かの交わり、散々摩擦されて敏感となった箇所に膨張した亀頭が強く当たるよう、腰遣いを細かに調節する。
大きく胸を反らし、乳首もペニスも痛いくらいに硬くして。
間接照明の薄明かりの中で淫らな音色を響かせる。
「ん、とっても……きもちいいです……佐久間さんの大きいので……私のあそこ……とけちゃう……」
積極的に興奮を高めようとする優生の貪欲さに煽られるのと同時に、佐久真は、小さな棘を胸に孕む。
但馬の前で放った言葉の全てが偽りだったわけじゃない。
「……ん……っ」
おもむろに上体を起こした佐久真はうっすら開かれていた優生の唇に口づけた。
舌を絡ませ、食み合い、唾液を鳴らす。
「はぅ……んぅん……ふぁ……」
互いに多忙なため会う時間は限られている。
だから、許されている時間、せめてその間だけは全てを繋げていたい。
優生を押し倒した佐久真は彼の両膝を肩につくまで持ち上げ、キスを続けながら、律動した。
「あぁ……んっ」
「いいか」
「んん……っいい……いいです……佐久真さん、もっと……」
幾筋もの銀糸を口腔に連ねて優生は佐久真に縋りつく。
「私、もう……いきたい……いかせて……佐久真さん……」
「優生、なら、約束しろ」
「……?」
「俺以外の誰にも目移りするな」
「……そ、れは……私が言うべきことです、佐久真さん……」
私は貴方だけにこの姿を見せるんです。
そんな貴方が去ってしまったら、私は、どうしたら……。
なんとも健気なことを言う「鶴」だと思い、佐久真は、そんな優生の願いを叶えてやることにした。
二人の狭間で勃ち上がっていた彼のペニスをしごき、肉巣深み目掛けて小刻みに打ちつける。
抉るように奥の窄まりを連打する。
「あ……いきそ、お……いく……いく……っ」
目を閉じて無防備となる絶頂寸前の優生を佐久真は視界に刻みつける。
その囁きを優生の鼓膜に刻ませる。
「優生、俺はお前のものだ」
「またのお越しをお待ちしております、但馬様」
聞き心地のいい声が高級車のエンジン音に掻き消された。
運転席の舎弟を殴ってやりたい衝動を抑え、佐久真は、サイドミラーから消えてなくなるまで優生の姿を見つめていた。
「佐久真」
バックシートに座る「銀龍会」トップに名を呼ばれて佐久真はやっと我に返る。
「なんでしょう、会長」
「年をとると考えが変わってくるものですね」
「……は?」
今は愛しい「鶴」を老いた腕の中に引き留めるよりも。
「鶴」の愛したものと添い遂げさせてあげたい、そんな親心が芽生えてきましてね。
よく言うよ、親心ある奴が我が子を他の男と目の前で同衾させるかよ、と佐久真はこっそり愚痴た。
「佐久真」
「なんでしょう、会長」
「鶴の羽が背中にくっついていますよ」
時同じくして「銀龍会」ご一行様の最後の車一台までお見送りしていた優生は「くしゅん!」とくしゃみしたのだった。
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