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【蛇】世にも奇妙にランデブー/擬人化蛇×既婚者リーマン

寂れた無人駅を通過して点滅する常夜灯に照らされた人気のない夜道を行くと、雑木林沿いの道端に妖しげな明かりを点す電話ボックスがぽつんと設けられている。 様々な虫の鳴き声が辺りで響く中、勤め帰りの日高崇文(ひだかたかふみ)は覚束ない足取りで舗装されていない道路を進み、その電話ボックスに入った。 薄汚い四面のガラス。 上の方には蜘蛛の巣がはっている。 それまで文月の熱気に苛まれていた肌が更なる熱を覚えてじわりと汗ばみ、崇文は苦しげにため息をついた。 公衆電話を前にしているというのに小銭を取り出す素振りはなく、彼は頭上の蜘蛛の巣を虚ろに眺めるばかりだ。 羽虫や小さな蛾がガラスの向こうに集ってこつこつと小さな音を立てている。 夜空に見えていた満月が風もないのに不意に分厚い雲に隠れ、闇が訪れた。 「来たな」 崇文は心臓を鷲掴みにされた心地になった。 扉が開いた気配もないのに、すぐ真後ろから低い声音が響く。 続いてするりと青白い手が胸の方へ伸びてきて、長い爪が喉をくすぐった。 「以前の逢瀬が遥か昔のように思える、崇文」 長い爪がゆっくりと通り過ぎただけでワイシャツのボタンが外されていく。 ネクタイが独りでに緩んで、崇文は、呻いた。 しかしそれは恐怖によるものではなく、どこか甘えを伴っていた。 嫌がるどころか催促しているような。 「私はお前の味が忘れられない、崇文」 崇文の背後に立つのは詰襟の学生服を纏う長身の青年だった。 血の気のない顔は一重の切れ長な眼と薄赤い唇でもって冴え冴えとした雰囲気を醸し出している。 鴉の濡れ羽色を髣髴とさせる漆黒の髪は耳元や首筋を僅かに覆っていた。 「崇文……」 伸びた爪が喉から鎖骨を通り過ぎ、胸を辿る。 座りっぱなしで残業をこなして疲れていた腰元に青年の冷ややかな熱が重なる。 「お前がいとおしくて堪らない」 胸の突起を掠られて崇文は身悶えた。 異様に長く赤い舌先が耳朶を這って唇にまで伝ってくる。 恐る恐る自分の舌を差し出すと嬉々としてねっとりと絡みついてきた。 いつの間にか下肢の衣服が足元へ落ちており、崇文の先端を青年は執拗に甘く引っ掻いた。 「あ」 崇文は前のめりになって電話台にしがみついた。 青年は崇文の背後で膝を突いた。 崇文の勃起した胸の尖りを長い長い舌から滴らせた唾液で濡らし、緩く開かれた股の間から差し入れた手で力みつつあるペニスを丹念に愛撫した。 家で帰りを待つ家族の存在を忘れて崇文は喘いだ。 「ああ、可愛い、私の崇文」 青年は小さな突起に舌を巻きつけてチロチロと舐め解す。 根元から搾り出すようにその肉片を握り締めて上下に摩擦し、割れ目に滲み始めた先走りの白濁が指先に触れると、一重の目に物欲しげな光を宿した。 崇文の体の向きを変えた青年は迷うことなく湿り気を帯びたペニスにむしゃぶりついた。 長い舌で舐め回し貪欲に吸いついて、甘く歯を立て咀嚼し、露骨な舌なめずりの音を夜の静寂に際立たせた。 止め処なく滴る白濁を飲み喰らって金色の眼を愉悦の色に浸らせ、青年は、耽溺した。 「あ……っはぁっぁ……ぁ……」 三十代の崇文は女じみた嬌声を口の端から零し、この上なく濃厚な口淫を施されて吐精した。 それでも青年は離れない。 すべてを喉奥に飲み干して、また次の絶頂を強請り、崇文の下肢にしがみついたままでいた。 虫の鳴き声もやみ、月光も閉ざされた真夜中、狭苦しい箱の中が狂気紛いの熱を孕む。 恍惚となり喘ぎ続ける崇文の視界にそれはふと飛び込んできた。 それはガラスに写し出されたあられもない態の自分と、肢体に猛然と絡みつく黒い大蛇の姿だった。 昔、崇文が父の故郷へ遊びにいった時のことだ。 日の傾きかけた時間帯、古めかしい稲荷神社の境内で小学六年生の崇文は手淫に耽っていた。 山奥の田舎ではあったが、いつ誰が来るかわかったものではない。 だが崇文は欲求を我慢できなかった。 草いきれの満ちる雑木林に閉ざされた彼岸の如き静けさともの寂しさの中で、どうしても、したくて堪らなくなったのだ。 崇文は社の裏手で何度か吐精した。 勢いよく放たれた白濁は幼い肉片を扱き立てていた右手を濡らし、周囲の雑草にまで飛び散った。 逢魔が時となり崇文が神社を去った後。 現れたのは一匹の黒蛇だった。 赤く細い舌をちろりと伸ばして、黒蛇は崇文が放った白濁を吸い、その味を身に覚えた。 以来、時折崇文を異界へ誘っては己の巣に捕らえ、黒蛇は崇文を心行くまで味わう……。 整然と立ち並ぶ新興住宅地の大型マンション。 とある棟の角部屋のドアを開けて崇文は我が家へ帰宅した。 妻はにこやかに残業帰りの夫を出迎える。 そのお腹は新しい命を育んで大きく張っていた。 台所で遅い食事の支度を始めようとする彼女に休んでいるよう声をかけ、ネクタイをハンガーに吊るすと、崇文は脱衣所へ向かった。 ワイシャツのボタンを外している途中、それがはらはらと落ち、崇文の視線は自然と足元に吸い寄せられた。 うっすらと黒く色づく鱗だった。 崇文は拾い上げたそれを口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。 異界の証を我が身の一つにした……。

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