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覗いてはなりませんフラグ-3
昼でも薄暗い林に囲まれた、おどろおどろしい、簡素な庵よりも大きな屋敷。
人の気配はまるでなく、カサカサ、コソコソ、何かが這い回る音がどこからともなく聞こえてきて、何とも不気味な。
そう、ここに人などいない、いてはならない場所なのだ。
もしもいるとしたら、それは、彼奴の餌……。
「嫌だあああああああ!!」
一つの座敷から聞こえてくる悲鳴は紛れもなく綾太郎のものだった。
破れ障子に閉ざされた、ひどくじめじめした薄暗がり、慈悲なき腕によって心安まらぬ寝床に磔にされていた。
「犬くさいのは趣味に合わないんだが。うつけ犬の当てつけにたんまり犯してやるとするかねぇ」
ギザ歯の超要注意人物に嬲り者にされようとしている綾太郎、必死で抵抗するものの、まるで歯が立たない。
あ。
いつの間にか草鞋が脱げて。
縞政が俺のためにこさえてくれたのに。
俺だけのために……。
「し……っしま……っ縞政ぁぁぁあ!!」
綾太郎の叫びに応えるように一つの遠吠えが屋敷内で上がった。
綾太郎、今、ゆく。
竦み上がって動けぬ綾太郎は震える眼でそれらを目にしていた。
破れ障子の向こうで繰り広げられる壮絶なぶつかり合い。
かろうじて差し込む夕日に照らし出されて写り込む影と影。
歪な破れ目から覗く……燦々と輝く立派な赤虎毛と……怖気を震う、蠢く無数の脚。
大百足だ。
とぐろを巻いては、毒を吐き散らし、隙を見ては、山犬長の右目を突こうとし。
縞政はひらり、ひらり、しなやかにかわす。
以前は仲間のために戦い、左目と引き換えに縄張りを勝ち取った。
今は綾太郎のために。
「ウウウウウウッッッ!!」
血飛沫が障子にびしゃりと叩きつけられて綾太郎は目を見開かせた。
倒れた一つのシルエット。
ドクンドクン、痛いくらい騒ぐ心臓を押さえて四つん這いで畳の上を進んで。
障子を開こうとしたら。
「あ」
左目の瞼に派手な傷跡が刻み込まれた山犬長の縞政が障子を突き破って現れた。
縁側でビックンビックンのたうつ大百足にとどめはささずに、綾太郎を背に乗せ、もうじき夜を迎えて暗闇に包まれる野の上を走り抜けて棲家に帰った。
「あ」
牙に引っ掛けていた草鞋を放ると、綾太郎は、慌てて手繰り寄せた。
大事そうに懐に抱え込んで項垂れる。
「ごめん、すまない、縞政」
大百足が吐き散らした毒を吸ってしまったようだ。
ほんの少し頭がクラクラする。
「縞政……縞政……」
震える体を安心させるように縞政が擦り寄れば、眩暈を堪え、安心させるように山犬夫に笑いかけた。
立派な赤虎毛にぎゅっと抱きついた。
「縞政、俺を抱いて……?」
長く厚い獣の舌が空中に高々と突き出された綾太郎の尻孔をゆっくりと這い回る。
「あ……っンンっ……ぁん」
障子の奥、板間に敷いた布団に這い蹲った綾太郎は切なげに身を捩らせた。
丹念に何度もじっくり舐め上げられる。
太腿を流れて膝裏まで濡れるほど山犬の唾液を塗りつけられる。
「あ、あ、あ……縞政ぁ……」
余りにも身悶える余り、乱れていた着物の懐からぱさりと何かが落ち、かぶりつきたいほどに瑞々しい尻をせっせと濡らしていた縞政の視線は自然とそれに吸い寄せられた。
「薬草、少ないけど……もっといっぱい取ってたのに、カゴ、落としちゃった……俺って、ほんっとぉ、そそっかしいよね……」
綾太郎は大切な薬草を板間の端に寄せていた座卓に置くと、布団の上に戻り、山犬夫を上目遣いに照れくさそうに見つめた。
「傷の痛み……なくなるといいね、縞政……?」
何とも健気な綾太郎に……縞政は股間のモノを恐ろしく滾らせた。
爪を引っ込めた前脚で、すでに乱れていた綾太郎の着物をさらに乱し、尻から背中にかけて満遍なく舌を這わせる。
うなじも首筋も。
甘い吐息を連ね続ける唇も。
熱く滾った肉色の勃起男根をねっとり濡れ渡った尻孔に押しつける。
引き締まった毛深い腰を小刻みに振り、先端がぬちゅりと肉孔に引っ掛かれば、そのままずぷずぷ奥目指して突き入れていく。
「あぁぁぁぁ……ぁぁ……あ」
ひと月振りの交わりに綾太郎は布団をぎゅぅっと握りしめ、ぴく、ぴく、山犬ヨダレに塗れた尻を震わせた。
「縞政ぁ……もっとぉ……俺、もっと欲しぃ……だんな様ぁ……」
尻をぷるぷるさせながらここぞとばかりに甘えてきた綾太郎のすぐ傍らで四肢を踏ん張らせた縞政。
毛深い腰を振り仰ぐ。
奥までヒクヒクと微痙攣している肉孔目掛けて山犬男根を何度も激しく振り下ろす。
「あんっ……ああんっ……だんな様ぁ……っ縞政ぁぁ……っ」
月明かりに照らされた障子に夜更けまで紡がれた濃厚なる交わり。
「あれ、縞政……?」
「綾太郎、全て飲み干せ」
朝、目が覚めればいきなり濁った苦~い飲み物を最後の一滴まで飲まされて目を白黒させた綾太郎。
「アレの毒を少し喰らっただろう」
「えっ、これ、薬草のっ? 縞政の分はっ?」
綾太郎の毒抜きのために薬草を全て使いきった縞政は首を左右に振り、起きたばかりの綾太郎をそっと抱きしめた。
「我が身の古傷など気にするな……そなたが毎日健やかに笑ってくれさえすれば、手前は、それでよい」
長い髪の下で縞政がぽっと赤面していることに気付いた綾太郎、つられて耳まで赤くなるのだった。
おしまい
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