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汝、もふもふ狼でも愛することを誓いますか?-2

「おふざけにも程があるぞ、明日香!?」 「呪いは簡単に解けるわよ、お兄様」 「教えろ!!」 「そんなの簡単」 二度と神父様に会わなければいいの。 「真実の愛を諦めて仮初の愛に耽ればいいの、お兄様、そんな相手はごまんといらっしゃるでしょう?」 ボロボロなスーツ姿の丞はしなをつくって高笑いする妹を「陰険ブス、性悪ブス」と罵って足早にバルコニーを後にした。 愛する相手に性的興奮を覚えたら狼に? 冗談じゃない。 それじゃあ織人とキス一つだってできないじゃないか!! 「私は別にそれでも構いませんよ」 「おい、織人」 「そもそも私は聖職者です。神に祈り続ける立場にあります。姦淫の罪など言語道断です」 教会に並ぶ木造椅子の一つに並んで座っていた二人。 「お前が<姦淫>なんて言うと最高にヤラシイな」 「や、やめて下さい」 「そもそも、あの時、俺に唇を許しかけただろう?」 「許しかけてなどいません」 「いいや、狼になるのが後少し遅れていたら、お前は俺と……ウウウウウッ!」 会話の途中で狼になってしまった丞に織人は目を見張らせた。 二十代後半の丞に見合った若さ漲る凛々しい獣の姿。 昨日は驚きやら動揺で混乱してじっくり鑑賞することなど叶わなかった。 「貴方、とても綺麗です、丞さん」 ボロボロになったスーツを脱がしてやり、困り顔でいる狼丞を至近距離で覗き込む。 「クーーン」 ああ、こんなすぐ目の前に織人がいるのにキスできないなんて、何たる拷問。 「そんなに悲しそうに鳴かないで?」 織人は狼丞をゆっくり撫でた。 極上のもふもふ心地。 首回りにより一層広がるモフモフ地帯を両手でヨシヨシしてやる。 「この瞳。本来の丞さんのものと同じです。暗闇をも容易く射抜きそうな鋭さを秘めた目」 「グルル」 「こうして触れ合えるのですから。よしとしましょう、丞さん?」 全然よくないぞ。 不満たらたらの狼丞はやがて性的興奮が落ち着いて人間の姿に戻る。 「きゃっ」 素っ裸のナリにまっかっかになった織人が両手で顔を覆い、そんな初心な姿にムラムラして……またすぐ狼になってしまう丞なのだった。 織人に夢中になればなるほど、ふっかふかもっふもふな狼と成り果てる丞。 悪循環だ。 性的欲求は高まる一方で、最悪、織人に会った瞬間に狼化することもある。 一夜限りの関係でも喜んで受け入れてくれる女はまぁ確かにごまんといないこともない。 一端、欲求を発散させて体を落ち着かせたいところだが。 「クッキー、食べます、丞さん?」 織人じゃなきゃあ駄目なんだ。 織人じゃないと。 織人がいいんだ。 「……丞さん」 庭の芝生に座れば膝上にぼすっと頭を乗っけてきた狼丞。 心地いい風が吹き抜けていく昼下がり、聖書を静かに捲り続けてきた神父の長細い指が極上な触り心地の体をゆっくり行き交う。 「あ」 眠りについたらしい。 膝上でとろとろ微睡んでいたかと思えば、不意に、人間の姿に戻った。 近くに用意していた外套で日差しに見栄えする裸身をすかさず覆った織人。 「ん……織人……」 丞の唇から洩れた呼号。 木漏れ日の下、神父の瑞々しい頬は瞬く間に薄紅に染まった……。

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