ぼくはしょくしゅ、ぜろさい。 仁貝(じんがい)学園の実験準備室にある金魚鉢がぼくのおうち。 「ぱんどら、おはよう、おなか空いたでしょう、すぐにあさごはんをあげるからね」 これはぼくのぱぱ。 白衣を着て、細長い目にめがねをかけて、とてもやさしいぱぱ。 ぼくのだいすきなちりめんじゃこ、ぱくぱくぱくぱく、とってもおいしい。 みずのなかはあったかくて、きもちがいい。 おはじきやビー玉、きらきらして、きれい。 でも、ぼく、ちりめんじゃこ、おはじきやビー玉、やさしいぱぱより、好きなものがあるの。 「ぱんどら、元気してっか？」 こーへー。 こーへーはこの学園の不良というやつ。 じゅぎょーがきらいで、ここにさぼりにきて、たなのすみっこにぱぱがかくしてた金魚鉢のおうちを見つけて、ぼくのことも見つけたこーへー。 「なんだよこれ」 さいしょはめずらしそうにぼくのことを見ていたこーへー、ぼくがちゃぷちゃぷ水面からかおをだしたり、金魚鉢のガラスにこつこつあたまをぶつけてあいさつしたら。 水の中にゆびをいれてあたまをなでなでしてくれた。 「変わった生きモンだなー」 こーへー、それからちょこちょこぼくに会いにきてくれるようになった。 やさしいぱぱより、やさしい、やさしい、こーへー。 ちゃぱつで、ときどきたばこをすってる、学ランの、こーへー。 ぼく、こーへー、すきすき。 「なんだよこれ」 授業がだるくてこっそり抜け出し、さぼれるテキトーな場所はないかと校内をうろうろしていたら、見つけた実験準備室。 そこで俺はぱんどらに出会った。 きもちわりぃ標本が並んだ棚の奥に隠されるようにして置かれていた金魚鉢。 ビー玉やおはじきが底に沈められて、やけに澄んだ水のなかで、ぷかぷか泳いでいた、不思議な生きモン。 金魚じゃねぇ。 熱帯魚でもねぇ。 てか魚じゃねぇ、マリモみたいな、でも緑じゃない、そもそもマリモってこんな風にすいすいぷーかぷーか泳ぐのか？　だいたいピンク色のマリモって存在すんのか？ 俺に挨拶するみてーに水面に浮いたり、ガラスに頭をコツコツぶつけてきたぱんどら。 水んなかに指を突っ込んで(あったけぇ、水っていうよりぬるま湯だ)、撫でてみたら、くるくるじゃれついてきた。 なんだよこいつ、かわいいじゃねーか。 「ああ、公平クン、見つけてしまったんだね」 そこへやってきたのが学校一の変人、理科実験助手の鈴木だった。 「そのコはぱんどらって言うんだよ」 「ぱんどら？」 「僕が作り出したんだ」 「へぇ、すげぇ」 「誰にも秘密だからね」 「んー」 「あと、絶対に、そこから出したらいけないからね」 「んー？」 タバコを吸ってる俺に注意するでもなく鈴木はにこにこしながら俺にそう言いやがった。 やっぱ変人だ、こいつ。