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ぼくはしょくしゅ★-2
ぼくにぱぱはいるけれどままはいない。
ぱぱが読み聞かせてくれた絵本に出てくるみんなには、ままがいた、ままってぱぱよりやさしくって、きれいで、あたまをなでてくれるんだって。
「よぉ、ぱんどら、ちりめんじゃこやるよ」
あれ? あれ?
もしかして、こーへーが、ぼくのまま?
そうだよね。
うん、きっと、そうだよね!
ぷーかぷーか泳ぐぱんどら。
放課後、家に帰るのもめんどくさくて、実験準備室に寄り道して時間を潰していた俺。
ブラインドがずっと日差しを遮る窓辺、愛嬌あるぱんどらの泳ぐ金魚鉢を棚から埃っぽい床に下ろして、泳ぎ回るぱんどらをじっと見下ろす。
『絶対に、そこから出したらいけないからね』
俺は鈴木が笑いながら言っていたことをぼんやり思い出しながら、特になーんも警戒するでもなく、ぷーかぷーか泳ぐぱんどらを。
両手でゆっくり金魚鉢から掬い上げてみた……。
「ままー」
金魚でも、熱帯魚でも、魚でもないぱんどらは。
実は触手だったらしい。
水から上げた途端、巨大化して、俺に襲いかかってきた。
ぬるぬるぬめぬめしたピンク色の触手が俺の腕に伸びてきて、びっくりして転倒しそうになったら、一斉に全身に絡みついてきて。
制服までぬるぬるに。
やべぇ、俺、まさかぱんどらに殺される……?
「ままー」
うわ、うそだろ、ぱんどら、喋ってんじゃねーか。
ちっちゃなこどもみてぇな声だ。
「ままー、すき、すき」
俺は気がついた。
ぱんどらは俺を襲ってるんじゃない、甘えてるんだ。
金魚鉢の中にいたときと同じように、俺の指にじゃれついていたみたいに。
そういえば。
さっき引っ繰り返りそうになった俺にぱんどらは絡みついてきた。
俺が床に頭をぶつけないよう助けてくれたんだ、こいつ。
「ままー」
「悪ぃ、ぱんどら、びびってごめんな」
「すきー」
「お前、触手だったんだな、すげぇな」
「ままーすきー」
「……てか、ままって何だよ? 俺、ままじゃねぇぞ?」
「こーへー、まま、すきすき」
触手の先っぽが俺の顔や首や耳にぬるぬる甘えてきた。
く、くすぐってぇ。
「ちょ、くすぐってぇ、ぱんどら、離れてくれよ?」
「やー」
ぱんどら、駄々をこねて、さらに俺にぬるぬるしてきた。
べとべとになった学ラン、これ、今日どーやって帰りゃあいーんだ。
中に着ていたシャツのボタンをやたら器用な触手先っぽで、プチ、プチ、外されていく。
「ちょ、ぱんどら?」
ぬーるぬーるぬーるぬーる。
シャツ真ん中のボタンが外されたかと思うと、その隙間から滑り込んできた触手が、胸にまで伸びてきて。
うわ、やべぇ、乳首に、乳首にきてる。
く、く、くすぐってぇ、まじで、まじこれやばい。
「ぱんどら、やめ、やめろ、こら」
「やー」
なんだよ、こいつこんな聞き分け悪ぃコだったのかよ?
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