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狼と犬と狐-3

「年長の奴等より速ぇ脚持ってるな、お前」 雪原に美しく映える漆黒毛並み。 白刃さながらに鋭く煌めく双眸が凍てついた風にさらに研ぎ澄まされる。 「将来が楽しみだ」 誰もが認める群れのリーダーに笑いかけられた幼い黒狼は張り切って頷いた。 「はい!!ボスのためにもっと速くなります!!」 そう言ってくれたから。 誰よりもボスに憧れて誰よりも速くなりたかった。 「仲間よりも守りたいものができちまったんだ、リコ」 どこまでも青く澄み渡った空の下。 所狭しと草木が生い茂る森の中を颯爽と駆けていく狼と、犬。 「月、余所見しねぇで俺を追うのに集中しろよ」 真っ白毛の月は黒狼のピアスを追うのに夢中だった。 大木を寸でのところで避け、茂みを飛び越え、片時も速度を緩めることなく疾走する眩い走り姿に釘付けになっていた。 すごい、やっぱりピアス、すごい! 群れの元リーダーであったピアスを相手に何とも贅沢な追いかけっこを全身全霊でもって月が楽しんでいたら。 いつの間にか月の影さながらに新たな黒狼が追いかけっこに加わっていた。 容易く追い抜かれた月は赤まなこを見開かせる。 あれ、今の、ディス? すごい速い! もうあんなに、ピアスの真後ろについた! 群れの中でも俊足を誇る黒狼の若雄のディス。 追い抜いたばかりの月をチラリと顧み、そして、先頭となって森を駆け抜けるピアスの後ろ姿をすこぶる悪い目つきで見据えた。 後少しだ。 俺の憧れだった、群れの誰からも尊敬されていたボスに並ぶ。 いいや、きっと追い越せる。 あのひとを追い越すことができれば、きっと、俺は、 「ぎゃんっっ!!」 その時、黒狼二匹の耳に悲鳴が飛び込んできた。 次の瞬間、華麗に回れ右を決めたピアスは自分の後を追っていたディスを俊敏に追い越し、草むらに倒れ込んだ月の元へ真っ先に駆け寄った。 黒狼の走りについ見惚れ過ぎた月、切り株に足元を掬われ、すっ転んで頭から草むらに突っ込んでしまった。 「月、大丈夫か?」 「クーーン……」 鼻頭を押さえてウンウン唸っていた月だが。 急に我に返ったようにガバリと顔を上げ、草むらの向こうで静止していたディスに涙目ながらも満面の笑みを向けた。 「ディィィィス!すごい!あんなに速かったなんて!」 無邪気に笑う月と、月にぴたりと寄り添うピアス、そんな二匹の姿を目の当たりにしたディスは。 「あっ」 何の挨拶もせずにくるりと回れ右してその場を走り去って行った。 「クーーン……行っちゃった」 ぺちゃんと草むらに伏せたままの月の真っ白耳を労わるように舐めてやりながら、ピアスは、見覚えのある若雄を視界の端で見送った。 「ディス。リコの弟か」 イライラする。 後少しで追い越せたのに。 ……あのバカ犬が躓きやがるから。 「ディス。どこに行っていた」 森の奥の縄張りに戻れば群れの現リーダーである兄のリコにすかさず声をかけられた。 弟のディスはフンとつまらなさそうに鼻を鳴らす。 「……またピアスのところか?」 片目にアイパッチをつけ、片目でじっと直視してきた兄に返事をせずにディスはその場からも離れた。 イライラする。 あのバカ犬のせいだ。 大草原の粗削りな木造小屋にて。 「くすぐったい、ピアス」 奥の寝室の寝台上、ヒト化した月の頬の擦り傷を長舌で労わる黒狼ピアスの姿があった。 べろべろと無造作に舐められて月はクスクス笑う。 それは大きく立派な黒狼の漆黒毛並みに両手を滑り込ませ、モフモフを堪能するように撫で撫でしてやる。 「ピアスもくすぐったい?」 何もかもが新雪じみた淡さを纏う中、唯一、色鮮やかな赤まなこが白刃の眼を無防備に覗き込んだ。 すると。 「わっっ」 前片脚でぼふんっとシーツの上に押し倒された月。 ずいっとのしかかってきたピアスに今度は首筋や頬をべろべろされた。 「ひーーっくすぐったい!死んじゃう!」 くすぐったい余り真上から退かそうとしてくる両腕をものともせず、ピアスは、身を捩らせる月を舐め続けた。 「んっ、ピアスってば……っ、ん……?」 そわそわ、そわそわ 「あ……またこれ……」 無防備極まりない滑らかな首筋を獣舌がしつこく行き交う。 器用にシャツを捲り上げて腹まで。 ざらざらした舌端によりあっという間にびしょびしょに。 「んぅぅ……っピアス……っ」 「交尾するぞ、月」 下半身がムズムズし、全身に押し寄せてきた微熱に目を閉じていた月が瞼を持ち上げれば、ヒト化したピアスが乗っかっていた。 「また……? 昨日の夜も……したよ?」 微かに抵抗の意を示す月をピアスは簡単に捻じ伏せてしまう。 「あ、っ、っ」 濃密な交わりを熟知したペニスが押し開かれて間もない月の後孔に性なる欲を教え込む。 優しく、ゆっくり、時に激しく、執拗に。 何回も何回も。 「ピアス……っ……まだするの……っ?もう三回目……」 「お子様なお前は俺に従ってりゃあいいんだよ」 「そんなぁ」 満遍なく紅潮して汗にうっすら濡れた真っ白肌に重なる褐色肌。 双丘に押しつけられた頑丈な腰が揺らめく。 自身の欠片で濡れそぼった雄膣をさらに奥まで濡らそうと励む。 ギシギシと軋み続ける寝台、月に乗っかったままでいるピアスに向け、壁の向こうからため息が一つ、届いた。 「そこの欲張り狼、過保護ったらありゃあしないですねェ」 「あ、玉藻ぉ……」 月の背中にピアスが覆いかぶさる寝台へヒト玉藻が平然とやってきた。 ふにゃふにゃになりかけている愛しい犬の頬に狐はそっとキスを。 「でも、確かに。月だとおやばか過保護になっちゃいます」 「クーーン」 「あたしが雌だったら嫁ぎたかったですよぉ?」 「萎えるようなことぬかすな、好色狐」 床に座り込んで月の頬にちゅっちゅしていた玉藻は律動をやめないピアスを流し目で見やった。 「よく言う。ギンギンみたいですけどねェ?」 「お前に鍛えられたおかげでな」 シーツに片頬を埋めて息を切らしている月の髪を愛しげに撫でながら、玉藻は、床に膝立ちとなった。 上体を倒したピアスと唇を重ねた。 唇で交尾するように舌先を深く絡め合わせた。 「わぅぅ……っピアス……もぉはいんないよぉ……」 ディスの走る姿きれいだったなぁ。

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