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狼と犬と狐-6

「遅ぇな」 「月ですかぁ?」 「またいつもんとこか。ちょっくら迎えに行ってくっかな」 「だめだめ、お邪魔ですから」 「は?」 「だから、お邪魔、なンですヨ」 「……相手、誰だ」 「んふふ」 「んふふ、じゃねぇ」 「キューーーー……ンッ」 一番星が光り始めた空。 冷たさが増した森の中。 落ち葉のベッドで行き交う熱。 「ディス……すごい……」 キツくて、熱い、ディスの内側。 もっていかれそうだ。 搾り立てられるような締めつけに汗が噴き出す。 「ハ……ッハ……ッハ……ッ」 うつ伏せになって落ち葉に埋もれるディスの短い息切れが夕闇の静寂に紡がれている。 なんだよこれ。 頭んナカ、ぐちゃぐちゃになる。 初めてなのに。 ツガイなんて、まだ先だって、そもそも運命の相手に出会えるのかどうかも不確かだったのに。 こいつが俺の相手? い……犬だぞ……? お……雄だぞ……? 「んーーーー……っ」 「あッ、んあ……ッ?」 最初は探りがちにおずおずと動いていた月のペニスがれっきとした律動を始めた。 ただ拡げられていた雄膣が擦り上げられる。 鉛じみた熱塊でぐずぐずに溶かされそうな。 「あッああッあッあッ!」 「すごいっ……すごいっ……ディスのなか……すごぃ……」 背中に覆いかぶさる月が腰を揺らめかせ、窮屈な仮膣を拡張されるのと同時にペニスで摩擦されて。 ディスは手の中にあった落ち葉を思わず握り潰した。 痛みなんか比にならないドロドロに甘過ぎる性感。 まるで運命づけられていたみたいに自分に馴染む月。 こんなの耐えらんねぇ。 体がバラバラになりそうだ。 「ディス……」 「ハァッハァッハァッハァッ」 「ディスも……すごい……? いっぱい……きもちいい? おれといっしょ?」 ディスの最奥にペニスを打ちつけながら月は問いかけた。 動くのを止められない。 ずっとずっと彼のナカで動いていたい、そう思えるくらい、愛しくて堪らなくて。 ディスは頷いた。 赤いまなこが蕩けそうになっているのを肩越しに見、たちまち見惚れ、答えた。 「月……交尾、きもちいい……」 名前。 呼んでくれた。 ディスがおれの名前、呼ぶの、初めて。 「ディス……もっと……もっと呼んで?」 「んあぁ……!」 「おれのこと、呼んで……っいっぱい呼んでっ?」 「あ、あッ……月……ッあ、あぅッ、ふーーー……ッふーーー……ッ」 「好き……ディス……っ好き……好き……好き……」 ピアス、玉藻、ごめんね。 おれ、ディスのこと、ディスだけを、これから愛するね? 夜のしじまを波打たせた遠吠え。 「あれ、誰?」 夜気に凍える森、落ち葉のベッドでモフモフ抱き合っていた月とディス。 「……ん、ありゃあ俺の兄貴だ」 真っ白毛に顔を埋めていた若雄黒狼に真っ白犬の赤まなこはパチパチ瞬きを。 「あの声って」 静寂をただ波打たせるだけだったはずの遠吠え。 谷に佇む隻眼黒狼のリコは胸に募る想いを咆哮として吐き連ね、そのまま踵を返して群れの元へ戻ろうとした。 すると彼を引き留めるかのようにまた別の遠吠えが。 どこか遠くから澄み切った闇を伝ってリコに呼応した。 あなたはだれ? どうしてそんなに淋しがってるの……?

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