「雨宮君なら問題ないだろう」 「まぁなぁ。だから俺もアイツを選んだわけだし」 「最高の人選だよ。どうもありがとう、日高」 「あ、ところでな、バツイチ限定町コンとか興味あるか？」 「再婚はまだしばらく考えられそうにないけど。面白いネタ集めにはなるかな」 「じゃあ二名で申し込んどくわ」 初日はビビリっぱなしの時生だったが。 「乱はおっとりしてて、鏡は遊ぶのが好きなんだね」 翌日には乱(らん)と鏡(きょう)の黒虎双子と打ち解けた。 元より温厚な性格で人に危害は加えない希少種、恐怖が薄れて関心が増した時生は自分より図体のでかい獣をそれはそれは可愛がった。 基本、平日は月水金、土日はどちらか、時間は朝の十一時から夕方六時まで。 何か用事が入った場合、連絡してくれればよいとのこと。 主人の社はほとんど自室にこもりきり、たまに昼食をご馳走してくれたり。 「料理は気分転換になるから」 おいしい手料理を振る舞ってもらった際に「ここで絵とか描いてもいいですか、汚さないようにするので」と時生が尋ねてみれば社は快諾してくれた。 次の日、時生は早速黒虎双子を描いた。 竹林の日だまりで仲睦まじくじゃれ合う姿を線画にして切り取って行った。 「この傷、痛かったよね、鏡」 何をしているのかと覗き込んできた弟黒虎の頭を撫でてやる。 「お兄ちゃんの乱を守ってできたんだよね。えらいえらい」 弟を撫でていればおっとり兄も背中に緩々と擦り寄ってくる。 「よしよし」 「すっかり仲良くなったみたいだな」 「あ、先生」 美しい黒ビロードの毛並みを惜しみなく艶めかせる黒虎双子に挟まれた時生の元へ、ＶネックのＴシャツにチノパンというラフな格好の日高が現れた。 美術部の指導帰り、こうしてたまに生徒の様子を見にやってくる教師は差し入れの炭酸ジュースを手渡した。 「温いです」 「学校下のコンビニで買ってきたからな、この辺ないもんだから」 「この竹屋敷って。先生のだったんですね」 車を置いて五分ばかり竹林を歩いてきた日高は額の汗を拭った。 「まぁな。じぃちゃんから譲り受けて。持家だけど学校からは地味に遠いし住むのには不便で、持て余してた」 大学で日高と社は知り合った。 同時期に結婚し、同時期に離婚を迎えたバツイチ二人。 「放置するより誰かに住んでもらった方が、な」 「仏壇にたまにお参りしてますよ、社さん、チーンって聞こえてきます」 「はは。アルバムも見られてそうだな。処分しないでそのままでいいって言葉に甘えてる分、文句は言えな、い……？」 会話していた時生と日高の間に鏡が割り込んできた。 時生の二の腕にかぷかぷ甘噛みする。 時生はくすぐったそうに笑い、一方、日高の方は……ちょっと意味深に目を細めた。 「本当、仲よくなったな」 「今度ウチの豆太郎連れてこようかな。柴犬なんですけど。でもバスに乗せられないか」 「うん……だな」 「本当に大丈夫だよな」 「雨宮君なら大丈夫だって。乱と鏡にとっては見慣れないオモチャ……こんな言い方は失礼か、健全な友達だよ」 「そうだよな、雨宮だもんな」 「お泊まり？」 「うん。雨宮君がよければ。せっかくの長期休暇だろうし百物語で夏の夜をひんやりさせるのも」 「そ、それはちょっと」 「夕食には日高も招いて、ね、乱と鏡も喜ぶと思うよ」 「先生も来るんですか？」 一緒にいて楽しい日高が来るとわかって、確かに竹屋敷で一夜を過ごすのも夏休みの醍醐味かと昂揚感が高まってきて。 時生はお泊まりのお誘いを受け入れた。 それがまさか未だかつてない夏の夜を過ごすことになるなんて。