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プリンスなカエル-3
あるところにそれは美しい王子様がいました、略。
麗らかな昼下がり、可憐に色づく草花の香りを乗せた薫風がそよそよと吹き抜けていく、静かな湖畔。
ピクニックに出かけてこの湖に辿り着いたカエル王子と執事のシャルロ。
スコーンなどのお菓子や紅茶を用意してアフタヌーンティーをのんびり楽しみます。
「おぼっちゃま、お疲れでしょう、スコーンには甘いブルーベリージャムをたっぷり添えましょうね」
森の中を進んできたというのに見栄えの良い燕尾服じみた執事服にも撫でつけた髪にもちっとも乱れがない、片眼鏡のシャルロ。
リュックサックから取り出した白磁の茶器にアールグレイを恭しく注ぎます。
「けろけろ」
アマガエルが巨大化したようなカエル王子、ティーカップではなく受け皿から紅茶を飲みます、べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、辺りに飛び散る飛沫。
湖に浮かんでいた白鳥たちはカエル王子のそりゃあ目も当てられない食事ぶりにうぇっと吐き気を催し、すいすい、もっと奥の方へ。
花から花へ飛び移っていた蝶たちはおぇっと蜜を戻しそうになり、ふわふわ、もっと空高くへ。
葉陰で休んでいたバッタたちはげぇっとちょっぴり吐いて、ぴょんぴょん、もっと草原の深みへ。
「まぁ、おぼっちゃま」
カエル王子のおそばに控えていたシャルロ、地を這う虫でさえ嫌悪した主の醜い食事ぶりを、微笑ましそうに見つめるばかり。
そうです、シャルロは審美眼がとち狂っているのです、別に魔法をかけられたわけではありません、ただ単にへんてこりんな趣向の持ち主なのです。
そんな執事と人外王子の前に突如として現れたのは。
「こんな森の奥深くでお茶会か、どこのご貴族様だ」
やばいです、巷を騒がせている山賊窃盗団の一味です。
しかも末端ならまだしも、窃盗団頭領のヴェノンムルがいるではありませんか、とても困ったことになりました。
「おい、なんだあれ」
「カエルか? カエルなのか?」
さすがの窃盗団も初めて目の当たりにするカエル王子にざわ……ざわ……状態です。
見るからに荒くれ山賊御一行様にびっくりしたカエル王子はシャルロの背後でぶるぶる震えています。
そんな主を庇うように、執事のシャルロ、少しも恐れず怯えず、最も近くにいた山賊の一人に交渉を持ちかけます。
「異国から取り寄せたこの茶器はたいへん値打ちがあります、こちらを差し上げますのでわたくしたちを傷つけるような真似はどうかお控え願えませんでしょうか」
白く輝く白磁の茶器を物珍しげに見回す山賊たち。
そんな手下どもに舌打ちしたヴェノンムル、ごつすぎない筋肉ボディに精悍な顔立ち、未亡人や娼婦を虜にする男前頭領は言い放つのです。
「そのブスガエルを寄越せ、蒐集家に好まれそうじゃないか、ブス標本にしてやる」
頭領の言葉に手下どもはあっはっはと笑い、カエル王子はぶるぶるうるうる、今にも泣き出しそう。
静かに、密かに、激昂したシャルロはというと。
目にも止まらぬ早さで百戦錬磨の山賊どもの脇をすり抜けたかと思えば、これまたバトル負け知らずのヴェノンムルの懐にそのしなやかな身を潜り込ませるなり。
指輪に仕込んでいた暗器、アイスピックのような鋭い形状をしたナイフの切っ先を雄々しい喉元へ突きつけたではありませんか!
「あ!?」
「お頭ぁ!!」
まさかまさか、戦闘能力など微塵も持ち合わせていなさそうな美人執事の俊敏身のこなしに山賊も、ヴェノンムルも、そしてカエル王子もびっくり仰天。
穏やかな木漏れ日に片眼鏡を不敵に光らせてシャルロは言います。
「盗みに明け暮れる糞豚どもの長、いいですか、よくお聞きなさい、それ以上おぼっちゃまを貶してごらんなさい、この喉首を真一文字に切り開いて糞豚部下どもの臓物、胃袋にまで直に詰め込んで差し上げましょう、なんならお腹も切り裂いて腸袋に汚物を詰めて出来上がったソーセージ、養豚場の餌としてくれてやりましょう」
色艶のいい女の人めいた唇からそれはそれは酷い脅し文句。
もう片方の切れ長な眼は怖気を振るうほどの殺気を放っています。
「さ、帰りましょうね、おぼっちゃま」
そうして、くるりと華麗に回れ右をしたシャルロ、凍りついている山賊どもの間を速やかに通り抜け、てきぱき後片付けをし、白磁の茶器は己の言葉通り手放して。
カエル王子の手をとると来た道をさっさと戻っていきました。
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