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彦星の願い事☆-2

「うしくん、うしくん、僕ね、牛さんと下界でデートしてみたいんだ」 七夕とは無関係な季節。 天帝に縁談を無理強いされた織姫から解放され、自由を謳歌する彦星、何やら一人遊びの真っ最中だった。 「だって、だって、あっんなにステキな牛さんだから。たっくさんの人に見せびらかしたいっていうか」 彦星は片手に牛をモチーフにしたパペットをはめていた、もう片方の手には、かえる……は見当たらない、うしくんパペット相手に無邪気にはしゃいでいた。 「ガチムチで、ガテン野郎系のルックスで、それでいて優しい牛さん。あーあ、牛さんとデートしたい、デートしたいなぁ」 「どうしたんです、彦星さん」 ごろんと腹這いになってうしくんパペットにちゅっちゅしていた彦星は……かーーーーっと赤くなる。 「冷たい人形に話しかけて、何か悩みでもあるんですか、悩みがあるなら相談役の私に話してくださいね」 肩越しにぎこちなく振り返れば本物の牛さんがいつの間にやら後ろに立っていた。 黒牛の半獣。 どんなに場数を踏んだ熟練マタドールでも怯みそうな立派な角。 そのくせ黒々と煌めく可愛らしい円らな瞳。 黒革ボンテージ風の衣装を着こなす筋骨隆々フルマッスルボディ。 「そんなに下界に行きたいんですか?」 「う、うん、行きたい」 「いいですよ」 「えっ? 牛さんも一緒に?」 「もちろん。私は貴方の相談役ですし、それに」 「それにっ?」 優男ゲイの彦星がうしくんパペット越しに期待の眼差しで見つめれば牛さんはきっぱり答えた。 「貴方の友でもありますから」 どうせなら恋人って言ってほしかったんだけどなぁ。 「人がいっぱいですね、今日は縁日か何かあるんでしょうか」 それに、牛さんってば、さ。 ありのままの姿だと目立つからって、僕や織姫、下界の住人を真似て人型に変身しちゃって、さ。 「彦星さん、来たがっていた下界に来た割にご機嫌斜めですね?」 体つきは相変わらずガチムチで所構わずむしゃぶりつきたくなるけど。 やっぱり半獣姿が最高にセクシーで官能的というか……。 「ごめんなさい、もっとおしゃべりに堪能な牛だったら良かったんですけど」 彦星ははっとした。 半獣姿の見てくれはダントツタイプ、しかし内面だって素晴らしい牛さん、そんな相談役に気遣われて反省した。 「ううん。十分だから。ねぇ牛さん、腕組みしてもいい?」 「どうぞ。あれ。何だか歩きづらいし、見られているような、気のせいですかね?」 「気のせい」 優しい牛さんに擦り寄って下界を楽しむ彦星であったが。 何というバッドタイミング。 時同じくして離れ離れに暮らしていた織姫も下界を訪れていたのだ。

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