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冥土喫茶はじめました/W半獣×学生バイト
「いらっしゃいませ!」
ドアに取り付けられたカウベルがカランコロン音を鳴らし、皿を片づけていたバイトの檜山信樹 は明るい声と爽やかな笑顔で客を出迎えた。
そこはある町の外れにひっそり建つ喫茶店。
ハンバーグもナポリタンもコーヒーもおいしい隠れた名店。
「いらっしゃいませ……」
だいたいカウンターの内側でカップを拭いているコーヒー担当の外馬 はいつも声が小さい、青白くて細身で頼りない感じで、強風が吹けばよろめいてしまいそうな。
「注文入りました、Dランチ一つ!」
「……ん」
だいたい店の奥に引っ込んでいる厨房担当の丑三津 は口数が極端に少ない、あまり誰とも視線を合わせず常に伏し目がち、猫背、何もないところでよく躓いたり壁にぶつかったり。
「ありがとうございました!」
大学生の信樹はこの喫茶店、二人の名前からとった「うまうし亭」のことが好きだった。
アウトドア派でスポーツはするのも観るのも大好き、最近山登りにも興味が湧き始めている、まぁつまり「うまうし」さん二人とはまるでタイプの異なる好青年は、三十路後半と思しき若白髪コンビの「うまうし」さんのつくるコーヒーと料理が大好きだった。
「信樹君、今日もお疲れ様……」
「あー! うまさんのコーヒー今日もうまいです!」
「ん……」
「わ! 今日の賄い、チキンのクリーム煮! すっげーうまそう!」
当の二人は食事をせずに売り上げのチェックを始め、閉店後、カウンターで遅めの夕食にありついた信樹は美味しい食事をかっ込みながらも「うまうし」さんをチラ見する。
二人、指輪してないし、そういう話も聞いたことがない。
結婚していないんだよなぁ、多分。
もしかしてどっちもゲイで、もしかしてカップルなのかな?
どっちもなんか乙女っぽいけど。
ゴキブリが出たら「きゃあ!」って言いそうだ、で、絶対退治できなさそうだなぁ。
「うまうし亭」に招かれざる客がやってきたのはアルバイトの信樹が店を後にした矢先のことだった。
「金、ぜんぶこの袋に詰めろ!」
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