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冥土喫茶はじめました-2

強盗だ。 マスクにサングラスにキャップ、身長は百八十手前くらい、なかなかがっしりした体格で二十代後半から三十代前半と見受けられた。 緊張も躊躇もしていない、実に手慣れた様子で包丁を真っ直ぐに突きつけ、野太い声で威嚇してくる。 最近、隣町で強盗事件が多発しており、男はそれらの事件と同一犯だった。 負傷者も出ていた。 防犯カメラのない「うまうし亭」に実は目をつけていた犯人、学生アルバイトが裏口から店を出て行ったのを確認してから、さも貧弱そうな「うまうし」さん二人のみ残る店内に裏口から忍び込むという計画的犯行に至ったわけだ。 金庫を施錠したばかりの外馬は。 白いコック服を着たままスツールに座ってコーヒーを飲んでいた牛三津は。 突然現れた強盗を見つめた。 驚きの余り声も出せないのか。 恐怖の余り手足も動かせないのか。 一切なーーーーんの反応も見せずに、ただ、強盗を見つめるばかりだった。 「おい、このグズ! さっさと金庫開けろ!」 携帯を忘れて取りに戻った信樹はシンクの影に隠れて予想もしていなかった展開に二人と同じく凍りついていた。 携帯はカウンター上にあるからここを出てもすぐに警察を呼べない。 一番近い公衆電話は駅、ちなみに走っても二十分はかかる。 近隣に店や民家は乏しく、すでに付近に人気はない。 ……ここは俺が行かなくちゃ。 だって見てみろ、二人、びっくりして竦んじゃって、かわいそうに。 日頃あんなにお世話になってんだろ、乙女中年の「うまうし」さん二人を助けなくちゃ……!! 「お金は……渡しません」 いざ踏み出そうとしたその瞬間、信樹の耳に飛び込んできたのは外馬の聞き逃してしまいそうな小さな声だった。 「……帰りなさい」 「なめてんじゃねぇぞ、これが見えねぇのかよ?」 すぐに金を渡すだろうと踏んでいた強盗は外馬の意外な回答に面食らったものの、気を取り直し、包丁をぐっと突きつけてきた。 外馬のやたら突き出ている青白い喉仏のすぐ近くに刃先が迫る。 「おら、俺ぁ本気だぞ、金くれたらすぐに帰ってやっからよぉ、けどな、なめた真似すんなら刺したっていいんだぜ、痛い思いすんのはやだろぉ? おら、とっとと金庫あけ、きゃあ!?」 ドスを利かせた野太い声でべらべら喋っていた強盗がいきなり乙女じみた悲鳴を上げた。 何故? それは外馬が不意に包丁を鷲掴みにしたからだ。 それだけなら、まだ乙女じみた悲鳴を上げるほどでもなかっただろう。 しかし素手でぐにゃりと刃先を曲げられた日には、そりゃあ、乙女じみた悲鳴も上げたくなるだろう。 つい先ほどまでの自分のようにその場に凍りついた強盗に向かって外馬は微笑んだ。 その青白い皮膚にヒビが。 ギシギシと不穏な音色を伴って外馬の顔に亀裂が、どんどん、みるみる。 毛玉のついたセーターとシャツを纏っていた、貧弱だったはずの体が、どんどん、みるみる、むっきむきの筋骨隆々マッスルハッスルボディに。 びりびりと縦横無尽に裂け目が走った挙句、ついには、ばりぃっと完全に服が裂けてしまう。 乙女中年だったはずの外馬は一瞬にして本性を現した。 スツールに座っていた牛三津も同じく。

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