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冥土喫茶はじめました-4

一面に群がる彼岸花。 赤、赤、とにかく赤で埋め尽くされた視界。 大学生の檜山信樹は目の前に広がる世にも奇妙な景色に圧倒された。 こんな場所が「うまうし亭」の近くにあったなんて知らなかった。 あれ、でも、何かおかしくないか? 俺はどうやってここに来た? ついさっきまで何をしていた? 全く思い出せない。 「おーい」 誰かが信樹を呼んでいる。 鮮血滴るような彼岸花の毒々しい赤から意識を逸らした信樹、脳内に疑問を引き摺りながらも声のする方へ。 誰そ彼刻が擁する薄闇に浸された世界。 彼岸花の海を抜ければ蜩カナカナ鳴く森へ。 首のないお地蔵さんの連なる道を行き、和紙の風車がくるくる揺れる祠の前を通り過ぎて。 鬼さん、こちら、手の鳴る方へ。 まるでそんな遊びに付き合わされているような不思議な心地で信樹は声の主を探す。 そして。 森を抜ければ次に信樹の視界に広がったのは川だった。 とても大きな川のようだ。 世にも妖しげに霧がかかっていて対岸がまるで見えない。 「おーい」 岸につけられた一隻の渡し船、その前で手を振る男、見覚えがない。 喪服の出で立ちで能面みたいに表情がない。 「お待ちしてましたよ、信樹くん」 ちょっと待てよ。 もしかして、俺、死んだ? これって三途の川? 正確に言えば信樹は今現在、病院のベッドで生死の境目を彷徨っている状況にあった。 「うまうし亭」の仕事を終えて帰路についていた信樹はノーヘル無免許の少年が運転していたバイクに跳ねられた。 少年はそのまま逃走、頭部を打った信樹は意識を失い、救急車で病院に運ばれた。 救急車を呼んだのは、異変を嗅ぎつけたのは、真っ暗な路上に倒れていた信樹を一番に見つけたのは…………。

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