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冥土喫茶はじめました-5
「お待ちしてましたよ、信樹くん」
「……俺、死んだんですか?」
「いーえ、厳密に言えばまだ死亡には至ってないですよ、ですが君はもう鬼籍に名を書かれたので死んでもらわないと、事務処理上ちょっとややこしくなるんですよ、なので、ほーら、この船に乗って彼岸 へ渡りましょうね」
無愛想な能面顔であるものの口調はフランク気味な男、信樹を船へと促す。
「ほーら、乗って乗って、まー流れは遅いですから、船酔いは大丈夫かと、到着するまでのんびりされててくださいねー」
信樹を乗せて渡し船はぎーこぎーこと川を進み始めた。
そうか、俺、死ぬんだ。
おとうさん、おかあさん、親不孝な息子ですみません。
実家のポチ、タマ、ケンカしないで仲良くしてくれよ。
山村に石崎、ケンぽー、ノリリン、友達だった俺のこと、時々でいいから思い出してほしいな。
彼女……は今、いなかったか。
……あ。
そうだ、あの二人は……。
「信樹くんは何だかそそりますね」
ぎーこぎーこ船を漕いでいたはずの能面男、すみっこで体育座りして頭の中を走馬灯のように駆け巡る思い出たちに鼻をぐすぐす鳴らしていた信樹の何故かすぐ隣に。
「何でしょう、いかにも爽やか好青年風で、外見だけかと思いきや、生前を辿れば内面もその通り、多感な思春期にも万引き飲酒タバコ浮気カンニング告げ口陰口一つだってしていない、十七歳より交際を始めた彼女とは高校卒業してから初性行為に至っています、何とも好ましくて、君って、とっても美味しそうです」
涙目で驚いている信樹を組み敷く能面男。
黒ネクタイをしゅるりと外して舌なめずりを。
「うーん、死者を手籠めにするのは職務違反ですが、まー、君が黙ってくれさえすればバレませんから」
事故に遭ったときと同じ格好、Tシャツにジーンズ姿の信樹に本格的に迫りくる能面男。
そのとき。
急に渡し船がぐらぐらぐらぐら……。
ざっぱぁぁぁーーーーーん!!
ぐらぐらが止まるなり派手に水飛沫を散らして川の水面から船頭に現れたるは。
「貴ッッ様、誰の了解を得てその人間に触っとるのだ!!!この小鬼風情が!!!!」
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