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冥土喫茶はじめました-6

水を弾いて猛々しく翻る漆黒のたてがみ。 ガチガチガチガチものものしく鳴らされる、何物も何者も容易く噛み砕く臼歯。 抑えられない怒りでいつにもましておぞましく血走る眼。 荒々しく噴き出される硫黄の臭気含んだ鼻息。 「そっ……外馬さん?」 信樹がこれまで一度も見たことのない、漢服に鎧をつけた出で立ち、つまり獄卒番人衣装姿の外馬こと馬頭は。 渡し船にどしんと乗り込んできた。 手には長槍、ぐるぐる頭上で回していたかと思えば、信樹の真上で驚いている能面男顔面に容赦なく突きつけてみせた。 「檜山信樹の命、我々に返せ」 「馬頭さん、貴方……定年迎えて引退したでしょーが……あ、我々ってことは、あ」 ざっぱーーーーんっと、今度は船尾で舞い上がった水飛沫。 ド派手に現れた、外馬と同じような出で立ちをした丑三津こと牛頭は。 肩に担いでいたずた袋をどすっと船上へ。 「彼奴の命と檜山信樹の命、交換せよ」 ところどころ彼岸花の色に滲んだずた袋、もぞ、もぞ、動いている。 「えー……だって鬼籍に名前書いちゃ、」 「改竄せよ」 「えー」 「彼奴の名は××××、檜山信樹を殺めかけた小童よ、フン、此岸でも三途の川でもその頭、木端微塵に叩き割……」 ずた袋を前にして顔面真っ青になっている信樹に気付いた馬頭、ゴホホンと咳払い。 「とにもかくにも返してもらう」 「はぁ、上層部も手を焼いている貴方方に刃向うわけにはいきませんね、ところで、どんなご関係なんです?」 「職務怠慢だな、小鬼よ」 「最新の生前データが更新されていないようだな」 外馬さん、丑三津さん。 俺のこと助けにきてくれたのか? しゃがみこんでいる信樹に牛頭馬頭は大きな手をそれぞれ差し出す。 信樹は両手で牛頭馬頭の手をとった。 次に信樹の視界に写り込んだのは病室の真っ白な天井だった。 *一か月後* 「もうすっかり異常ないそうです」 「……そうですか、それはよかったです」 「……ん」 バイトを休んでいた信樹の久しぶりの訪問に「うまうし」さんは心なしか嬉しそうだ。 とは言っても相変わらずの口数の少なさ、さも弱々しげな貧弱中年ぶりであったが。 閉店後の「うまうし亭」にコーヒーの香りがふわりと漂う。 「あの、俺、お二人に伝えたいことがあって」 病室のベッドの上でずっとずっと思っていたことを信樹は意を決して言葉にする。 「二人は俺のこと……俺の命を救ってくれました、だから……俺、二人のために! このお店で! 生涯働こうと思うんです!」 シーーーーーン あれ、実は俺、そんなに重宝されてなかったか? いやいや、でも、それだったら二人、わざわざ三途の川まで俺のこと助けにきたりしないよな? 「……嬉しいです、信樹君」 「ん……」 「ただ、一つ、ワガママを……本当に図々しいと思うんだが、厚かましいと思うんだが、面の皮が厚いと……思われそうだが、まぁ、本当に厚いんだが、」 「何でも言ってください!!」 スツールから腰を上げた信樹は外馬のなよっとした手をとり、伏し目がちな丑三津をこれでもかと見つめた。 その日から信樹の「うまうし亭」永久住み込み就職が決定した。 「いらっしゃいませ!!」 大学を中退した信樹、日中はせっせとフル稼働、引っ込み思案な「うまうし」さんに代わって爽やか笑顔にサービス精神満開で接客する。 定休日前の夜になれば。 「うまうし亭」二階の住居にて、「うまうし」さんから牛頭馬頭へと姿を変えた雇用主コンビに代わる代わる体の隅々まで溺愛し尽くされる。 畳に敷かれたお布団の上、仰向け状態で全身引き攣らせた信樹の肉孔を壮絶巨根がフルストロークで行き来する。 内臓までもがごりごり押し上げられるような悶絶感覚。 正に限界まで押し開かれたアナルに突撃する、ぬらぬら黒く照り輝く超絶巨大男根。 立ち込める獣臭、獣性に満ち満ちた雄々しい息遣い、それはそれはご立派な律動を繰り広げる逞しい厚腰。 食い千切られそうなくらい締めつけられた人外ペニスはふんだんにぬるつく肉壁の狭間で遠吠えを上げる。 膨張巨大睾丸から汲み上げられた生精液を盛大に解き放つ。 近隣に民家の乏しい「うまうし亭」二階で二頭の咆哮が尾を引いて響いた。 定休日はだいたい自分らの粗相掃除に追われる「うまうし」さん。 遅起きが許されている信樹は布張りのソファですやすや眠っている。 あの夜、不穏なる異変を察して路上に駆けつけ、意識不明の重体に陥った信樹の姿を見つけた「うまうし」さん。 あのときの恐怖は今でも忘れない。 この先も、きっと。 あんな恐怖と二度と対面しないためにも信樹をそばにおいておくと決めた牛頭馬頭。 信樹を傷つけるものがいるならば全力で頭を叩き割……と決めた元獄卒番人。 「……ふわぁ、あ、おはようございます!」 「おはよう、信樹君……コーヒー淹れますね」 「ん……寝起きから尊い、いっぱいちゅき……じゃない、お前が好きなチキンクリーム煮、いっぱいつくってやる」 「やったー!……あ、いてて」 牛頭馬頭の最強加護を我知らず得た信樹、腰を擦りながらも、うまうし特製ランチを目前に気分は上々なのだった。 end

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