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おすふぇろもんではらませて-4

「常務、このジェンガとアベル、実はジェシカの子供なんです」 「なんと! 黒虎の繁殖に成功するとは! だがしかし! ジェシーの伴侶は一体……?」 「お、俺です」 「なんと!!」 部長から常務に昇任した小松原の上司は喜んでジェンガとアベルを引き取った。 最愛の夫なるジェシカもいる大邸宅、小松原は家族の様子を見に週末ちょくちょく遊びに行くようになった。 「ジェンガ、アベル!!」 お手伝いさんに案内されて母親の小松原がやってくると、錦鯉の泳ぐ池のそばで日向ぼっこしていた子供達は毎回大喜びして駆け寄ってくる。 ぐーーんと立ち上がって肩に両前脚を引っ掛け、べろんべろん、左右の頬をひっきりなしに舐めてくる。 「よしよし、狭いワンルームにいるより伸び伸びできて幸せそうだな、ジェンガもアベルも」 自分が産み落とした黒虎の性フェロモンには耐性のある小松原、一頻り我が子達とのスキンシップを楽しんでから。 石灯篭のそばで丸まっていたもう一頭の黒虎へ駆け寄った。 「ジェシカ、先週ぶり! ……あれ?」 小松原は何度も瞬きした。 最愛なる夫であるはずのジェシカを改めて注意深く見回す。 黒豹によく似た、漆黒の短い毛並みが美しい、希少種に該当する黒虎の立派な成獣。 金色の鋭い双眸でじっと小松原を見上げてくる。 「……ジェシカじゃ……ない?」 「ああ、小松原君、来ていたのかい」 今度は縁側に現れた常務の元へ駆け寄る小松原、まだ石灯篭のそばで丸まって寛いでいる黒虎を指差し、あわあわ尋ねた。 「ああああの、あれ、ジェシカじゃありませんよ?」 「よくわかったなぁ、小松原君」 あの子はジェシーの兄、ジェラルドだよ。 「あ、兄? お兄さん? ジェラルド?」 「私の兄が飼っていてね。今、本人達の気分転換も兼ねて取り替えっこ中なんだ」 ああ、やっぱり。 なんか余所余所しい眼差しだったし、ジェシカと違って、なんかこう……ドライな感じがしたもんなぁ。 ジェシカの兄であるジェラルド、甥っ子達に遊んで~とじゃれつかれても無視、時に「ガルル!!」と牙を剥いてまだ若い雄二頭を追っ払っている。 伯父に追っ払われたジェンガとアベル、次は母親の小松原に構って~と再び颯爽と駆け寄ってきた。 「あはは、よしよし、いい子いい子!!」 若いながらも鋭い爪と牙を持つ獣に他ならないジェンガとアベルを全力で甘えさせてやる小松原。 ちょっと離れたところで悠然と寝そべった義兄のジェラルド、そんな弟妻の小松原を密かに意味深に眺めていた。 時々、マンションのがらんとしたワンルームに一人っきりでいると、常務に託した我が子達が恋しくなる小松原。 「でも、ここにいるより広い家で伸び伸び暮らした方が幸せだもんな」 着替えるのも面倒くさく、ネクタイとスラックスは我が身から取り外して下はボクサーパンツ一丁、ワイシャツの第一ボタンを外して缶ビールとタイムセールで買ったお弁当をしんみり食べていたら。 チャイムが鳴った。 夜遅い時間帯の訪問客は通い夫のジェシカ以外に考えられない。 特技の「前片脚チャイム鳴らし」を披露して、ドアの外で待っているに違いない。 それまで沈んでいた表情をぱぁぁぁっと輝かせ、小松原は駆け足で玄関へ向かった。 ドアの取っ手を握った瞬間、ふと、一昨日に聞いていた常務の言葉を思い出した。 ジェシカ、常務のお兄さんの家からもう帰ってきたのかな? がちゃりとドアを開けば。 そこにいたのは同じ黒虎でも、ジェシカではなく。 兄のジェラルドだった。 「だっだめっっやめてーーー!! おっ、お義兄さーーーん!!!!」

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