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【狼】先生は狼だった/狼先生×生徒
■この話には別シリーズ「狼先生と仔兎生徒」の主要キャラによく似たキャラが登場しますが、未読でも問題ありません
遥か上空で鋭い三日月が闇を切り裂く、夜の入り口。
秩序正しい静けさに包まれた、ありふれた、住宅街。
街から聞こえてくるサイレンはまるで夜想曲のような。
「ん…………」
あるマンションの一室、ベッドの上。
キャメル色のカーディガン、チェックのスラックスという制服を着た一人の男子生徒が仰向けに横たわっていた。
その真上にいるのは、紛れもない、狼。
室内の薄闇に馴染む黒い毛並み。
恐れを知らない強い光を帯びた眼。
ぴんと尖った獣耳、ふさふさした尾、大柄ながらも俊敏性に長けたしなやかな肢体。
普段は高校の体育教師として生活している郷野 先生のもう一つの姿。
狼郷野は、この秘密を唯一知る生徒の藤崎凛 と今から交歓のひと時を始めようとしていた。
「ふ……くすぐったい、です」
長い舌で頬を舐められて、少し長めの天然茶髪の凛は、クスクス笑う。
狼郷野は大胆な口づけを続ける。
淡い色を浮かべた、瑞々しい上下の唇も、べろんと舐めた。
「んっ」
強めの刺激に凛はぶるっと震えた。
笑みが途絶え、その表情に緩やかに芽生えた、嬌態。
飼い主とペットという繋がりならば他愛もないコミュニケーションに過ぎない。
だが凛と狼郷野はそんな関係ではない。
教師と生徒。
なおかつ、れっきとした恋人関係にあった。
「……」
恥ずかしそうにしながらも、凛が、おずおずと唇を開けば。
斜めに鼻先を傾けた狼郷野は、がぶりと、凛の口元にかぶりついた。
「ふ……ぅん……ぁ……っふ」
長い肉厚の舌で口内を掻き回される。
凛は触り心地のいい毛並みにしがみついた。
溢れ出た唾液が次から次に下顎へ滴り落ちていく。
先生、先生……。
何度も心の中で凛はすぐそこにいる郷野を呼んだ。
速やかに熱が回って頭がクラクラしてくる。
逆上せてしまいそうだ……。
「…………ぷはぁっ」
狼郷野が頭を起こし、口元が自由になった凛は大きく息を吹き返した。
すでに涙目だ。
愛しい生徒を労わるように、狼郷野は、滑らかな頬から目尻にかけて舐め上げた。
「……あ」
爪を引っ込ませた前脚が器用に凛の着ていたシャツとセーターを捲り上げた。
露となった肌に、大胆な口づけが、隈なく降り注ぐ。
「あ……ぁん……せん、せ……っ……は……ぁ」
立派な成獣にのしかかられている凛は華奢な肢体をもどかしげに捩じらせた。
強めに擦りつけられる舌端はもちろん、長い毛もちりちりと柔肌に触れて、勝手に腰が揺れてしまう。
いくら器用な狼郷野でもベルトは外せない。
「せ、先生」
じっと窺うような眼差しで、ぽんぽん、凛の股間を前脚で叩く。
ちょっとだけ力を込めて、ぐっと、圧迫してくる。
「やっ」
火照り始めていた凛は真っ赤になった。
グルルと唸る狼郷野は、また、ぽんぽんする。
「…………」
凛はぎこちなく両手を自分の股間へ伸ばした。
狼郷野の真下で、カチャカチャと、ベルトを外す。
狼郷野は行儀よくじっと待っている。
ジィィィ…………とファスナーの下ろされる音が静寂にやけに響いて聞こえた。
「……先生……」
狼郷野が普段の姿をしていたら、絶対、こんな真似はできない。
自らズボンも下着も脱ぎ捨てて、足を大きく開いて、こちらから誘うなんて。
きっと恥ずかしさの余り失神してしまうだろう。
狼の姿をした先生には何故だか全て曝してもいいような気持ちになる。
凛のぎこちない誘いに狼郷野は命じられていたわけでもない「待て」を解いた。
真っ白な内腿をべろんと舐める。
その勢いのまま、中心の、硬くなりつつある肉芯へ……。
「あーーー……っっ」
凛はびくりと仰け反った。
咄嗟に唇に手の甲を押し当て、一生懸命嬌声を塞ぎ止める。
狼郷野は正にむさぼった。
開かれた両足の中心へ頭を埋め、凛のペニスを、そのやや下にある後孔まで、ぐっしょりと濡らしきった。
「はぁぁ……っん、ぁっ、んんっ、ん……!」
甲斐甲斐しい舌淫の最中に凛は達してしまった。
白濁した蜜が弾かれて漆黒の毛並みに散る。
狼郷野はその蜜液すら舐め尽くした。
「ごめんなさい、先生の綺麗な毛……汚してしまって」
甘い陶酔感に涙ぐんでいる凛の言葉に狼郷野はグルルと唸った。
凛はまだ気にする素振りを見せていたが。
狼郷野がおもむろに下肢を落とし、硬く雄々しく育った感触が皮膚に触れた途端、何もかもが意識から吹っ飛んだ。
熱く脈打つその先端が太腿に宛がわれているだけで壊れそうなくらいに胸が高鳴る。
熱くて、熱くて。
溶けてしまいそうだ。
太腿に押しつけられている狼郷野のものを、凛は、そっと握り締めた。
掌に伝わってくる脈動に、また、鼓動が加速を始める。
凛はごくんと息を飲み込んだ。
すぐ真上でじっとしている彼のそれを自身の後孔へと導いていく。
「せ、先生の……挿入 れます……ね」
わざわざ声をかけ、ベッドで仰向けになって足を開かせた状態で、どくどく脈打つ熱源の先を双丘の狭間にぴとりと密着させ。
つぷりと中へ招いた。
「あ……ふぁぁ……」
ああ、だめ、まだもうちょっと。
もう少し挿入れないと、先生が動いたら、すぐに抜けてしまう。
力任せに一気に抉じ開けるのを避けたい狼郷野は最初の挿入段階をいつも凛の担当にしている。
よって狼先生は健気に辛抱している。
赤面した凛が一生懸命頑張って自身のなかへ我が身を招こうとしているのを真摯な眼差しで見下ろしていた。
「も、もうちょっと……挿入れます……ん……っく……」
愛しい生徒の熱に包み込まれていく。
ああ、早く、もっと。
もっと繋がりたい。
藤崎のなかを俺のものでいっぱいにしたい。
狼郷野は動き出した。
凛の傍らに四肢を突かせ、長い尾でぴしゃりと虚空を打つと、凛のなかを行き来した。
狭い肉壁が熱の塊に押し上げられる。
生温い音を立てて激しく摩擦される。
凛は全身をびくびく波打たせてぎゅっと唇を噛み締めた。
奥底が無性に疼き、こんな欲深な体だったのかと、自己嫌悪めいた戸惑いを抱く一瞬もあったりする。
だけど狼郷野に一心に溺愛されていく内に、泡となって、儚く消えていく。
「せんせぇ……っせんせ……」
凛はぎゅっと狼郷野に抱きついた。
何度も何度も突き上げられて、いっぱいになって、それでも続けられる甘い甘い交歓。
蕩けてしまいそうだ。
夜想曲の途切れない静かな夜。
カーテンが閉ざされた部屋の中、互いの温もりを延々と確かめ合う。
「せんせ……大好き……」
漆黒の獣に頬擦りして凛は涙ながらに囁いた。
週末。
郷野は車を走らせて隔週に一回程度と定めている真夜中のドライブに出かけた。
助手席には凛が座っている。
夜遅いので本当は連れて行きたくなかったのだが、凛がいつになくお願いしてくるので、止む無く同行を許した。
数時間かけて着いた先は真っ暗な海岸だった。
郊外で、付近に民家も人気もなく、物騒この上ない。
そんな場所で狼化した郷野は砂浜の上を駆け回った。
獣の性も持ち合わせている郷野、自由に人目も気にせずに自分自身を解放したくなることがあるのだ。
「先生、本物の狼みたいです」
なんだ、偽物だとでも思っていたのか、藤崎。
真っ暗な砂浜で狼郷野にじゃれつかれて凛は声を立てて笑った。
途切れない潮騒に満月。
愛しい生徒を隣にして狼先生は遠吠えを上げる。
フルスピードで走り回って解放させるつもりが、砂上に連なる足跡は仲良く寄り添ってばかりいた。
end
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