なにこれ。 二人とも、ほんと、乱と鏡みたい。 ううん、乱と鏡よりも意地悪だ、嫌だって言ってるのにぜんぜんやめてくれない……。 社と日高にじわじわ攻められて時生は涙目になった。 手首や首筋、うなじ、こめかみに代わる代わる口づけられる度にぶわりと頬を紅潮させていった。 そこへ。 窓辺で昼寝していた黒虎双子が緩やかな目覚めを迎え、揃って伸びをし、三人が群がるアンティークソファの元へやってきた。 「乱、鏡……」 見た目はなかなか立派だが成獣にはまだまだ程遠いこどもの黒虎双子は、今度は、絨毯の上でぴったり寄り添い合ってゴロンした。 密着している三人を双子揃ってまじまじと眺めた。 「えっと、あの、乱と鏡が見てるので……ここら辺で、もう……」 獣の眼差しに照れる時生のすぐ背後で、社は、端整な微笑を深めた。 「これでよくわかったよ、雨宮君」 「……はい？」 「君のことが何よりも大好きな乱と鏡だ、君の感情の起伏には殊更鋭い反応を見せるはずだろうね」 「……？」 「だから。君が心から嫌がって拒んでいるのなら。たとえ長い時間を共にしてきた相手だろうと迷わず牙を剥く……僕と日高を外敵と見做して君から遠ざける。僕はそう思うよ……？」 え。 なにそれ。 それって、じゃあ、おれが、まるで。 「ち、ちが、そんなわけっ……っ……っ」 耳までまっかにして慌てて反論しようとした時生の台詞は日高の唇によって中断された。 見開かれた双眸から頬へ伝い落ちた涙の一滴までいとおしいと、日高は思う。 夏休み以降、学校で、この屋敷で、趣味の水彩画を描いている横顔に煽られた日々の鬱積を払うように意中の生徒に口づけた。 「雨宮の濡れた目……綺麗だな」 美術部員でもない自分の描いた絵を度々見てくれた、憧れていた日高にそんな風に褒められて。 時生はぎゅっと目を閉じた。 「何だ、ひどいことするな、ずっと見ていたいのに」 「うううううっ……そんなこと言われても困るので……普通にむりなので」 「雨宮君、こっち向いてごらん……？」 「うううううっ……」 不器用なところがある、優しい、照れ屋の、どこにでもいそうな青少年に心を奪われた社も胸に満ちていた想いを唇伝いに想い人に注ぎ込んだ。 これまでの人生で目にしたことのない儚げな美貌を持つ小説家の冗舌ぶりに時生は……それはそれは甘美な目眩に射貫かれかけた。 ほんとは、二人のこと望んでるって、そんなのありえない。 だっておれより何歳も年上で、先生で、作家さんで、結婚して、離婚して、かっこよくて、きれいで、オトナで。 おれなんか。 ぜんっぜん相応しくない。 「もっと足開いてごらん、雨宮君……」 「雨宮、楽にしてやるから、怖がるな」 あられもない欲望と堂々と向かい合って自分を手放そうとしない社と日高に時生は空しくイヤイヤし続けた。 「あっ……やだ……だめ……こわいです……せんせ……社さん……」 黒虎双子に見守られながら、不慣れな絶頂に、幾度となく堕とされた……。 「やっぱりおれココがいい」 竹屋敷をぐるりと囲う竹藪の狭間にできた冬の日だまり、落ち葉の吹きだまり。 お昼寝していた乱と鏡の間に潜り込んだ時生は美しい黒ビロードの毛並みの中心で丸まった。 「あったかい」 マフラーと手袋が疎ましくなるくらいのぬくもり。 むぎゅっと自分に寄ってきた黒虎双子に埋もれるようにして、うとうと、甲高い鳥の囀りを頭上に穏やかな午睡に呑まれそうに……いや、完全に呑まれた。 「こんなところに」 「風邪引くぞ、雨宮」 時生を探してやってきた社と日高は思わず苦笑したものの。 かけがえのない青少年の無防備極まりない寝顔、黒虎双子のふかふかっぷりの誘惑に完敗し、野外の昼寝に参加した。 「うわ、びっくりした……」 目が覚めた時生は周囲に群がる熟睡中の彼らに思わず笑顔になる。 「やっぱりみんなそっくりです」 end