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第3話
さらに次の日の放課後、図書館。
久弥は、本を借りるという名目で満の様子を見にやってくる。
しかし、図書館内に満の姿はない。
久弥は本を借りるついでに、カウンターの男子に聞いてみる。
「あのさ、今日、楠木満来てないのか?」
「あぁ、今日は当番じゃないから」
「そうか、分かった。ありがとう」
男子生徒の答えに久弥は軽く礼を言い、少し残念な思いで本を持って行こうとする。
「あ、生徒会長、あまりアイツに関わらない方がいいぜ、興味本意で近づいたら痛い目みる」
「え? 痛い目?」
「見た目はおとなしそうだけど、アイツ、この間も……」
男子生徒は、首をかしげる久弥に小声で勿体ぶって話す。
「2組の男子を殴って骨折ったらしいし、その前も病院送りにしたらしい。いい噂聞かないから、悪いことは言わない、近づくなよ」
その忠告を聞いても、久弥は特に動揺した様子もなく。
「それは、その男子が楠木を怒らせるような事を言ったんだろう。俺は大丈夫だから、じゃ、明日もまた来るよ」
そう微笑んで会話を終わらせる。
久弥は実際、満に関わってみて満がそんな暴力を振るうような人物には到底見えなかったから、噂程度に思っていたのだ。
「せっかく教えてやってるのにな、危険人物だって」
去っていく久弥を見送りながら、ぼそっと呟く。
実はこの男子生徒も、痛い目にあった一人なのだった。
そして、翌日。
放課後……いつもの時間。
「こんにちは」
久弥はまたも、本棚の整頓をしている満に軽く声をかける。
満はその姿を捉らえると、一瞬、また来たのか。というように怪訝な瞳をして、すぐ視線を本棚へ戻し無視する。
「キミって、カウンターはやらないの?」
そんな満のそっけない態度を気にするでもなく久弥は会話を続ける。
いつも本棚整理ばかりしている満だから気になり聞いてみる。
「……」
満はその質問を無視しようと思ったけれど、微笑んで答えを待つ久弥に見つめられると、なぜかポツリと答えてしまう。
「してない」
「あ、どうして?」
満が返事をしてくれたことと、答え方が敬語でないことに、久弥は驚きながら、さらに続けて質問する。
「……」
「人と接触するのが苦手だから?」
今度は無言のままの満を見つめながら、ストレートにその心を捉らえ聞いてしまう。
満は心を読まれたかのような気持ちになり、その綺麗な顔を上げて久弥を睨む。
そして――トンっと、久弥の胸のあたりを押して離れながら敵意を含む瞳を向ける。
「帰ってください」
「……わかった」
久弥は息をつき、少し残念な思いで頷く。
満に関わる時、なぜかそれ以上強引にならない方がいいと、そんな気持ちさせられる。
「じゃ、また」
そのまま久弥は、優しい微笑みを残して図書館を後にする。
満は、その後ろ姿をまた静かに見てしまう。
日種久弥、今までにないタイプの人間。
近づいてはいけない。
けれど、拒みきれていない。
明日も来るんだろうか……。
満は、そんなことを思ってしまう。
そして、次の日も、その次の日も。
満が思った通り久弥は図書館にやって来た。
本を借りたり返したりした後、必ず話かけてくる。
始めのうちは無視しようとする満だが、久弥の邪気のない笑顔を前にすると、どうしても短く言葉を返してしまう。
だから、話が長引かないうちに満が「帰ってください」と言うと、久弥はあっさり帰ってしまう。
久弥はただ毎日たわいもない話をして帰るだけだった。
満は久弥の目的が分からなくなる。
今まで満に近づいてくる同性は皆一様に満の男子らしく見えないその容姿を珍しがり、からかったり、満を変な眼で見ている奴らばかりだった。
初めは久弥のことも、馬鹿な男子生徒と同じように自分を性欲の対象として見て近づいて来たのだろうと思って敵視していたのだけれど、久弥にはそんな素振りは一度も見られない。
だから余計に不思議に思えて仕方がない満だった。
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