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第5話
「な、違うよ、どう言ったら分かってくれるかな。本当に気になったんだ」
逆に久弥は少し冷静になり、そう伝える。
一日一日、重ねて会うにつれて、満の新しい一面に出会えて、毎日、話をするのが楽しみになっていた。
「帰って、二度と僕の前に姿を現わさないでください」
満は久弥を強く睨んだまま言い切る。
なぜ、これほどまで怒りをあらわにしているのか、それさえ分からずに、ただ断ち切らねばならないという思いに押されて出た言葉。
「楠木……」
久弥は、さすがに二度と来るなと言われては『はい』と素直に下がる気にはなれなかった。
なんとか誤解を解こうと名前を呼んで満の肩に触れようとする。
しかし、パシっとその手は満によって払いのけられてしまう。
後に残るのは苦い気持ち、険悪な雰囲気。
「……」
やや、沈黙の時が流れて。
「……、わかった」
久弥は伏せ目がちに言葉を発する。
(今、ここで何度、誤解だと説明しても楠木満の反応は同じだろう)
と、そんな気がしたから。
(少し時をおいて、また話しに来よう)
そう考えて今日は帰ることにする。
「……っ」
やや俯いて帰ろうとする久弥を見て、満は急に不安な気持ちになる。
いつも満の言うことを素直に聞いて帰る久弥。
もし、今日の言葉をそのまま受け取ったら、日種久弥は、もう二度と姿を現さなくなってしまう。
満は心の中で思った矛盾を隠しきれなくなり、気付いた時には――。
ぎゅっと、久弥の腕を握り、引き止めていた。
「えっ!?」
満のその動きに驚く久弥。振り返って瞳にその姿を映す。
「……」
満自身、その行動の理由を説明出来なくて視線を下げて黙ってしまう。
満は矛盾する心を整理しきれなくて、勝手に動いてしまった、この身体が恐くなる。
(こんなことは今まで一度もなかった)
腕に触れたまま、動きを止めてしまった満に久弥は優しく微笑んで頷く。
「うん」
そして、腕を掴んでいる満の手にそっと触れる。
「……ッ!」
びくっと、満は身体を縮め手を引く。
「すみ、ません。……僕に、近づかないで、ください」
そして、行動全部を否定するように頭を振り、久弥に謝って図書館の奥へと消えていく。
「あ、っと」
訳も分からず、久弥は取り残され、その場でしばし呆然としてしまう。
「今のは……」
(引きとめられたよな、でも、口では近づくなって、なんだかメチャクチャだな)
普通ならからかわれているように取ってもおかしくないのだけど、久弥は違った。
そんな不思議な行動をとる所も含めて、楠木満を知りたい気持ちでいっぱいになる。
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