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第7話
「楠木は……」
また満の声が聞きたくて久弥は話し始めるが、それを遮るように入口の方から声がかかる。
「ヒサヤ! ここにいるの!?」
静かな雰囲気を切り裂くような女子の声だった。
「迎えがきたから、今日はこれで。また、生徒会が早く終わったら来るから」
「……誰?」
満は声の主が気になって、初めて久弥に質問する。
「友達、だよ」
その問いに久弥は、なぜか嘘をついてしまう。女友達と。
呼びにきた人物は、本当は彼女、いや、それ以上の相手だということを、とっさに隠してしまう。
せっかく話してくれるようになった満を、また遠ざけてしまうような、そんな気持ちになったから……。
「……」
「また」
感情を表さず久弥を静かに見つめる満に取り繕うような笑顔を見せて、久弥は去っていく。
その姿を満は目で追ってしまう。
入口付近で呼んでいた女子生徒に会い、怒られている様子で、久弥は図書館を後にした。
満は、その様子も表情を変えずに、いつものように見ている。
そう、心は動かない。
たとえ、久弥に彼女がいようと、友達がいようと、久弥の口から『また来る』という言葉が聞けたから、今は不安に思うことはないし、自分は干渉できるほど身近ではない。
そう思い。
また、いつものように本棚の整頓をはじめる満だった。
それから、数日が過ぎ、久弥は言った通り、生徒会の仕事の関係で、姿を見せない日が続く。
今日も図書館の当番の満は、奥の棚を片付けていた。
時刻は十八時。
今日も久弥は来なかったな、と頭にかすめ思った時、入口の戸が開く。
満は、そっと入口の方を覗いてみる。
「……」
入って来た人物は久弥ではなかった。
少しだけ、残念な気持ちを抱いて、また奥の棚へ戻る。
そして、訪れた男子生徒が早く帰ってくれればいいと思っていた。
しかし、やってきた男子生徒の目的は満だった。
室内に誰もいないのを確認して満に近づく。
「!」
「ふ、まだ残っていたんだな」
気配に気付いて振り返る満に、男子生徒は鼻をならし近づく。
満は、この生徒に見覚えがあった、同じクラスの煩いくらい口八丁な奴だ。
満にも何度か関わってきたけれど、煩いので無視を続けていた人物。
名前は三野繁だ。
満は相手を睨みつけながら後ずさる。
「お前さぁ、俺のことは無視するくせに、会長とはここで話してるらしいな」
どこから聞き付けたのか、そんなことを言いながら、三野は威圧するようにさらに満に近づく。
「……」
この人物の考えていること、経験で分かってしまう。
満は端に追い詰められる前に三野の脇を通って逃げようとする。
「っと、逃がさねぇよッ!」
三野は満の細い腕を掴み、棚に強く当て、押さえ付ける。
「ぅッ!」
棚で背中を強く打って、一瞬息が詰まる。
その隙に、満の制服の上着のボタンを外し、強引に剥ぎ取る三野。
「っ!」
満は、さらに嫌悪感をあらわにし、相手を睨みつけ抵抗する。
「綺麗な緑色……今日こそは、お前を手に入れてやる!」
三野は深緑の瞳を覗きこんで、満の抵抗も無視し、さらにカッターシャツにまで手をかけて、一気に襟元から引き裂く。
「っ、離してください!」
「嫌だね、こんな時間まで残って、何を待ってるんだ? 本当はこういう事されたいんだろ? お姫さん」
服を破られ、さすがに声を出す満だが、三野はそれをも楽しむかのように怪しく笑って、その素肌に触れようと手を伸ばす。
「ッ!」
引き裂かれた服を抑えながら、三野に体当たりをして、落ちている上着を拾い、必死に逃げようとする。
「逃さないって言ってるだろ。俺が今まで、お前にしたいと思っていたこと、教えてやるよ!」
三野はそう言うと、足をひっかけ、満を倒し馬乗りになる。
三野はさらに、満の両手を持って床に押さえ付ける。
「っぅ!」
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