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第8話

鼻息を荒げ近づくその相手へ、嫌悪感でいっぱいになる。 「痛ッ、離してください。それ以上の行為に及ぶなら後悔することに、なりますよ」 その、満の口から発された言葉は、意外にも冷静な声だった。 「はっ!この状況で、よくそんな事が言えるな!」 三野は満の制止を気にするでもなく、素肌へ舌を這わせようとする。 「ッ!」 次の瞬間、満は反撃に出る。 ドカッ!  馬乗りになっている三野を後ろから、手加減なしに膝蹴りを飛ばす。 「ハッ、痛っ!?」 急な後ろからの攻撃に、前にバランスを崩す三野、満は同時に身体を捻って、その体勢から抜け出す。 「っ!?」 倒れ込む三野、驚いて満の方を向く。 満は、間をあけず、三野の顔を続けて蹴り、今度は満が三野を壁ぎわに追い詰める。 三野の見上げるその視線は、信じられないという色に染まっている。 満は廃物を見るような目つきで、三野を見下げ、さらに、腹や顔を数回、無表情のまま蹴り飛ばす。 「ッや、悪かったッもう、しない、許しッ、ぐッ」 三野は、あまりの痛さに許しを請うが、それすらも無視する。 (こいつの動きを止め、黙らせないと安心出来ない) 三野が反撃の為に出した足、その足首を満は、ガッと踏み付ける。 「あぁ!ッイ、痛ッう、ッ」 三野は痛みに堪らず呻き声を上げる。 その状況を途切れさせた、ひとつの声――。 「やめろッ!」 その声の主。 覚えがある声。 ハッと、振り向く満が目にした姿は、そこにいるのは、やはり――。 「……、日種、久弥」 信じられない気持で、名を呟く声も途切れる。 鋭くこちらを見ている久弥、いつもの優しい雰囲気はない。 見られてしまった――。 一番、見られたくないトコロを、一番見られたくない人に……。 満は、一時、その状態から動けなくなってしまう。 一方的な暴力、どう転んでも自分に非のあるいき過ぎた行為だ。 驚愕したような、その久弥の瞳に見つめられ、いてもたってもいられないくらい、感情が不安定になりそうで、満の下唇が微かに震える。 不意に、久弥の視線が下がる。 それを追って見ると、引き裂かれたカッターシャツ、間からは素肌が覗いている。 乱れた、自分の姿。 満は、胸がしめつけられるような思いになり、震える手で、その破れたカッターシャツの胸元を掴むと、微かに否定するように顔を横に振り、これ以上、この姿、醜い自分を久弥の前に晒したくなくて、落ちている制服の上着を掴むと、そのまま走って逃げるように図書館を後にする。 久弥は、引き止める言葉すら出ず、しばらくその場に立ち尽くしてしまう。 信じがたい光景を目にして、心の中で何かが動くのを感じる久弥だった。

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