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第14話

久弥の眼差しが熱くて、満は見つめられた視線からナナメ下へ顔をそらしてしまう。 こんなことを改まって言われたことなどなく、どう答えていいのか戸惑った。 しかも、その相手は自分が一緒に居たいと望んでいた人なのだから。 「……」 満は無言のまま、胸の高鳴りを感じる。 久弥には、その満の反応が、拒否しているように映って辛くなる。 「はじめは本当に純粋に……、君に興味があって近づいたんだ」 言い訳のように言葉を繋ぐ久弥。 それが、恋という気持ちに変わるのに、そう、時間はかからなかった。 認めるのが恐かっただけで。 (どうでもいい事ならこんなにも悩まない。満のことを…彼を本気で好きになっているから、こんな熱い気持ちになれたのは初めてで、満だけだから…) 久弥は苦しい溜め息をついて、満から視線を外す。 「楠木、君から言って欲しいんだ。気持ちが悪い、付き合いきれないと、そうすれば…、この想いが届かなくとも踏ん切りはつくから……」 宙を見据えながら伝える久弥。 本当はこんなこと言われたくないけれど、伝えたことをうやむやにはしたくない。 本人からの言葉を聞けば諦めもつくだろう、と、覚悟して言う。 「……」 久弥の言葉を黙ったまま聞く満。 久弥は満の言葉をひたすら待つ。 「……」 満の沈黙が、こんなにも重く苦しくて、長く感じるとは思わなかった久弥。 どんな言葉が返ってくるのか、不安がつのる。 「……、動けなかった」 ポツリと呟くように言葉にする満。 「え、」 久弥は、思っていたこととは違う満の言葉に、聞き返してしまう。 「いつもなら、あんな奴…殴り飛ばすのに、動けなかった……」 静かに続ける満。 久弥は満の姿を再び瞳に映す。 「ヒサヤの声が『やめろ』って頭の中で響いて…動けなかった。相手を殴ったら…余計、ヒサヤに嫌われると、思った。会えないって言われたのも、僕が…暴力を振るう、ひどい奴だから」 ぽつり、ぽつりと、言葉にする満。 違うよ、と久弥は軽く頭を振る。 「嫌われたくない、ヒサヤには」 そう瞳を上げる満。 瞳が合い、久弥を見つめ、満はぎこちなく微笑む。 (他の誰に何を言われても無視できるけど、ヒサヤにだけは、嫌われたくない) 満は言葉にしたあと、心の中でそう想う。 久弥は満の言葉を聞いて、身体の芯が震える感覚を味わう。 おそらく、はじめて見るその満の不器用な笑顔が可愛くて、愛しく思えて……。 熱い気持ちにおされ、満を強く抱きしめてしまう久弥。 そっと耳元で囁く。 「い、いいのか?俺が想っていることは、三野たちと同じこと、嫌だったんだろう?」 久弥はもう一度、確認するように自分の想いを満に問う。 「ヒサヤなら、嫌じゃない」 満は抱きしめられたまま、ぽつりと答える。 「みつる」 名前を呼ばれ、久弥もそっと名前を囁き返す。 その言葉だけで、満の気持ちが充分伝わる。 満も自分を必要としてくれていた。 その喜びが素直に表情にでる久弥。 抱きしめた腕を緩め、再び瞳を合わせる。 満の肩を両手で持って、静かに顔を近づけていく… 満は久弥が求めていることが伝わって、そっと瞳を閉じる。 「……」 そして、まもなく、柔らかい唇が満の唇と重なる。 満にとっては初めてのキス。 嬉しいような、胸が苦しくなるような…不思議な気持ちが胸中をかける。 何度か触れ合い、静かに身体を引く久弥。 「嬉しい」 満は、ぽつりと呟く。 「俺の方が嬉しいと思っているよ」 優しく微笑んで、満を抱き寄せる。 満は口づけを交わした今も、久弥に想われているという実感が湧かないでいた。 これから、どう付き合っていけるのか、秤にかけると、不安の方が少しまさっていて… でも、久弥は自分といることを望んでいて、自分も久弥といることを望んでいる。 それが叶っているのだから、これからのことを考えるのは贅沢なことなのかもしれない、そう心のなかで思い… 久弥との語らいの時を過ごす満だった。

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