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第15話《伝えたい想い》

久弥から告白を受けてから数日…。 月が変わり満の図書委員の仕事がなくなって、放課後の図書館に残ることも出来なくなり、久弥に会う事が難しくなる。 昼休みも久弥は、一緒に食事をするどころか、いつも決まった女子生徒と昼食を共にしている。 そんな久弥の姿を見るのは辛い満、できるだけ遠巻きにするよう離れていった。 それが久弥のためになると思っていた。 久弥は、この学校の代表、生徒会長なのだ。 それなのに、妾の子などと噂されるような自分が久弥の近くをうろつくわけにはいかない。 満自身も生徒会長のそばに行くことで、目立つことを極力避けたかった。 皆の考えが久弥の元にいる自分を許すはずはないと分かっているから……。 時々、下駄箱に入っている久弥からの小さな手紙を心待ちにする毎日だった。 今日も下校時にひとつの手紙が入っていた。 その中身は……。 《ミツルへ。君に会いたい…放課後、第二音楽教室で待っています。ヒサヤ。》 その久弥の筆跡で書かれた手紙だけで、喜びが胸をかける。 久弥に会えることが嬉しくて、指定された場所に急いで向かう。 第二音楽教室。 放課後は部活動に使用される事もあるが、久弥が呼ぶくらいだから、今日は使われていないのだろう。 四階のつきあたりの教室…。 部活以外は滅多に人は来ない、学校という場所は名前が知れ渡っている久弥にとって、満と密会する為には、どうしても不利な場所で、そもそも最近は生徒会行事の集まりが毎日のようにあって単独行動すること自体難しくなっていた。 そんな不自由な付き合い方しか出来ない二人…。 それでも、会わないと満の心が自分から離れてしまうのでは…と不安で、久弥は友人や彼女を切り離して、満に会いにいく。 久弥は普段からできるだけ満と接触を持てるように、同じ場所で昼食をとったり、決まったトイレを使うようにして、満に自分を見つけ安いように行動していた。 しかし、最近満は、自分の前に姿を見せなくなり…ごくたまに通りすがっても、瞳も交わしてくれない… そういう時、久弥は余程声をかけて引き止めようかと思ってしまうのだが…、満は公の場所で声をかけられるのを望んではいないから、我慢するのだけど…苛立ちは隠せない。 第二音楽教室の前までたどり着いた満…。 四階の端の教室だけあって、本当に人気はない…、静かに戸を開いて教室の中へと足を進める。 夕暮れ時で、電気のついていない教室内は、薄暗い…。 恐る恐る久弥の姿を探すが、見あたらない。 不意に物音なく後ろから抱きしめられる。 「ッ…!?」 満は驚いてビクッと身体を硬直させるが… 「俺だ、満…」 耳元で囁くように聞こえた声は…、呼び出した本人、久弥だった。 満は安心したように息をつく。 「驚かせて…ごめん。でも、こうせずにはいられない」 「ヒサヤ」 「…逢えないのは辛い、もっと話がしたい、満と」 久弥は満の耳元で囁くように伝える…。 その言葉を聞いて頷く満。 抱きしめた腕を緩め、満を自分の方に向かせる久弥。 瞳を交わして、もう一度…向かい合った状態で抱き寄せる。 (もっと逢いたい…) 「…それが、ヒサヤの助けになるなら…、呼んで欲しい、来るから」 満は久弥の腕の中で、ぽつりと答える。 「ミツルは…、ミツルは、俺が呼ぶから会いにくるのか?俺に逢いたくて会いにきてくれているんじゃないのか?」 満の想いが知りたくて、そう問う久弥。 満は軽く首を横に振り…。 「会いたい、ヒサヤ」 そうぽつりと答える…。 その言葉を聞いて少し安心する久弥。 「よかった、俺だけなのかと思えて、それなら今度からはこんな裏でこそこそ会うのはやめて、校内でも堂々と俺の近くに居てほしい」 久弥は前々から言いたかったことを、この機会に聞いてみる。 「え…」 満は、久弥の言う事が理解出来なくて…答えに詰まる。 「友達と偽らなくてはならないけれど、こんな少しの時間しか君と一緒にいられない、気軽に話しも出来ないのは…辛すぎる」 久弥は自分の気持ちを満に伝える。 それは満も同じ気持ち……。 でも、満は首を横に振り、久弥の言葉を否定する。 「どうして?」 久弥は否定されたことが悲しくて聞いてしまう。 満は公になることを恐れているけれど、友としてならもっと多くの時間を共に過ごせるのに…二人きりにはなれないとしても……。 久弥の気持ちは嬉しいけれど、それだけは出来ない満。 答えられない…… 「満は…俺のそばに居たくないのか?」 そっと身体を離し、満を見て聞く久弥。 「…いつもは、居れない」 ぽそっと答える満。

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