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第17話

「そうじゃない、そういうつもりで言ったんじゃない!」 久弥は首を横に振って満の言葉を否定する。 「…俺は、ミツルを物だなんて思っていない、…決められた相手がいる自分が言えることではないけれど、俺が本当に好きなのは…ミツル、君なんだ…、許嫁なんて名前だけだ…、俺の心は伴っていない」 そっと満を落ち着かせようと話す久弥… 「わからない…」 「ミツルの存在は…俺にとって失いたくない、かけがえのない存在なんだ…」 久弥は想いを満にすべて伝えるつもりで語りかける。 「…俺がもし、生徒会長でなく、許婚も家や両親の期待など、何もなかったら…」 久弥は満を抱き寄せながら… 「何に縛られることなく満を俺の恋人だと言えるのに…もっと多くの時間を一緒に過ごせるし、満にも苦しい想いをさせずに済むのにな…」 満は久弥の真剣な言葉を聞くうちに、久弥の想いが、考えていたことと違うのだと気付きはじめる…。 久弥は本気で自分のことを…? 「…あの人のコトは?」 満はポツリといつも胸の中にしまっていた疑問を初めて口にする。 『あの人』とは、久弥の許嫁だという女子生徒のこと…。 久弥はどう思っているのか… 「…関係ないよ、恋愛感情なんて持った事ない、俺は彼女と共にいるより、満のそばにいる方が安らげるんだ」 久弥は、本心からそう伝える…。 「…ほんとうに?」 弱々しく聞く満。 「本当だ、ミツルは遠慮しすぎてる。もっと俺を必要としていいんだ」 必要としてほしい、久弥は…満を抱きしめながら続ける。 「俺とミツルは相思相愛だろ…違うか?」 「…違わない」 軽く首を振って答える満。 「なら、同等に俺を見てくれるか?一歩引かず、同じ目線で…そういう付き合い方をしたいんだ。物じゃないミツルと付き合いたい…」 久弥はその想いを確かめるように頼む。 「…ヒサヤ」 満はポツリと名を呼んで、浅く頷く… 「……ミツル」 久弥も可愛いそのヒトを呼び返す。 「…僕は、ヒサヤのコトがすき…、でもそれは不確かなもの。今まで…こんなに人と、深く接することなんて、なかったから…」 満は久弥の見守りを受けながら…気持ちを表に出していく。 (人と…ヒサヤと接する事さえ臆病になって…自分の気持ちを伝えることさえも躊躇っていた…) 「…うん」 久弥は優しく頷いて満の言葉を聞き入れる…。 「わからないコト…ばかりだけど、でも…、これだけは判る…僕はヒサヤに嫌われたくない、ずっと好かれていたい…」 「ミツル…」 その気持ちに触れることができて、久弥は嬉しくなる。満からの言葉が、ずっと欲しかったら…。 「この気持ちだけじゃ…駄目?なのかな…」 満は自問するように、ぽつりぽつりと続けて話す。 「…付き合うって、恋人同士って…どうすればいいのか…一番、わからない…教えて、欲しい…」 不安そうに聞く満。 (どうすればヒサヤを怒らせずにすむ自分になるのか…教えて欲しい) 「ミツル…そんなに悩まずに、今みたいに俺に気持ちを伝えてくれたらいいんだ…俺ばかり一方的に好きだって言ってるのは…なんていうか、割に合わないだろ?」 久弥は満を教室の奥へ誘いながら、安心させるように言い聞かせる。 「言葉がなくても、心が通じあえる…とかっていうけれど、俺達はまだそこまで到達していないと思うんだ」 教室の窓際… オレンジの夕日が差し込む席に、向かい合わせに座る二人…。 そして、優しく言葉を続けるヒサヤ。 「だから…俺たちも、そうなれるように…今は話し合って、お互いをよく知る必要があるよな」 久弥の言葉に満は小さく頷く。 「俺の望みは、こういうふうに、満と会える時を増やしたい…ミツルは?」 「…僕は、ヒサヤと…一回でもいいから、昼食を共にしたい」 出来ない事だけど…。 久弥は満の願いを受けて、浅く頷いて答える…。 「そうだな…俺も食事を一緒にとりたいと思っていたんだ、だから、時間とるよ。今はほとんどアイツと食事してるけど…週に一回のペースなら誤魔化せると思う」 「…本当に?」 満は無理を承知で言ったので、当然断られてしまうと思っていたのだが…、久弥から思わぬ返事が返ってきて驚く。

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