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第25話
「兄さんは別に…日付が変わるまで遊んでたわけじゃないし、少しくらい自由にしてあげてもいいじゃないですか?」
いつも反抗してるだけあって、健次は堂々と反論する。
「お前は黙っていろ!!」
大きな声で、健次を一喝する祖父。
「健次…」
また言い返そうとする健次を、そっとなだめながら、満は祖父に言葉をだす。
「…遅くなり心配をかけてしまった事については謝ります、申し訳ありませんでした」
「兄さん!?」
素直に謝る満に、なぜ?というように、健次が呼ぶ。
「でも…お祖父さんのやり方には、自由がなさ過ぎる。僕は気付いてしまったから…」
続けて自分の気持ちを伝える満。
謝った満を見て頷いた祖父だが、続けて満の反発の言葉を聞き、また表情が厳しくなる。
「それがどうした、お前達…特に満、お前に自由が必要なのか?お前に必要な事は勉学のみだ、友を作る必要などない、遊び歩くなど、もっての他だ!お前に今、求められているのは何だ!」
横暴な言い方で満の訴えを退ける。
「…大学進学し、脳神経外科医になって病院を継ぐ」
何度も何度も言い聞かされてきた、自分の立場。
「分かっているだろう…お前は長男だ、楠病院の本院を継ぐ者だ。弟のように聞き分けのない事を言っていい立場ではない」
キツく、断定的に満に言い放つ祖父。
「…っけど」
今までその言葉を信じて、責任をはたさなければならない一心で、祖父に認められるよう尽くしてきた。
でも、そこから得られるものは少なくて…久弥に触れて、心を許して得られたものは大きかった…。
これからも逆らうだろう…祖父に何を言われても。
反抗的な態度を残す満を見て、腹にすえかねた様子でいう祖父。
「まだ、判らんようだな。言って判らん者には罰を与える」
「この本を一冊レポートに書き写せ、それが出来るまでこの部屋から出て来るんじゃないぞ」
祖父は百ページ以上はあろうかという、心得についての本を投げ落とし、そのままこの部屋を後にする。
「……」
「兄さん、手伝うよ…」
その本を拾いあげ、健次は言う。
「けんじ…」
ぽつりと呟くように満は弟の名前を呼ぶ。
「手伝うよ。僕、書かされ慣れてるし…書くの早いよ。…十分で千五百字以上は書けるから…字は殴り書きになるけどね。こういうの書かされて悔しいけど、お祖父さんの機嫌を損ねたら罰はもっと加算されるから。それに、字が早く書けるのは試験に有利になるし、自分のためになるからね」
健次は笑って今までの経験をふまえて満に言葉をかける。
満は、そんな健次を見て表情を緩め頷く。
「…書こう!」
健次のとなりに座って、レポート用紙に書き始める。
本を開いて満が右側のページ、健次が左側のページと分けて…。
「この本は一ページ七百五十字くらいだね、一時間ひとり十二ページ書けるとして、二人なら遅くても5時間くらいあったら終わるよ、がんばろ!」
すでに書きはじめている健次。
祖父からの罰を受けて書かされ慣れているだけあってかなり筆速は早い。
本のページ数と筆速を算出して終了時間を予測する健次、自分がしなくてはならない訳でもない事なのに。
健次は億劫がることなく、それどころか…どこか楽しそうにペンを走らせている。
人を助けるために労をいとわない健次、今までの自分には絶対に分からない心。
自分の利益にならないことは捨てて考えていた…それが利口な人間なのだと、ずっと教わっていたから。
「けんじ…」
満はポツリと名前を呼ぶけれど…本当に言いたい言葉が定まらなくて、言い詰まる。
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