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第26話

「何?」 書き写しながら柔らかく答える健次。 「……ありがとう」 ぽそっと、伝える満。 「…うん。兄さんにありがとうなんて言われたの初めてだから、感動した」 浅く頷く健次、満の思わぬ言葉に驚いて言う。 「……」 そんな健次に少し顔をしかめ、そして笑う満。 健次は静かに微笑んで…。 「…兄さんって、あまり僕と話してくれなかったから…でも、僕は、もっと話がしたいなって、思ってたんだ」 「話?」 「そう、僕…結構、兄さんのこと尊敬してる。あと、長男として生まれて可哀相だなって…兄さんも、もっと自由に遊んだり恋だってすればいいのにって…思ってた」 でも、いつも満は祖父や父に逆らうことなく従っていて、反抗してる僕は子供でバカみたいに思えたから。 満は黙って聞いている。 「今、こうして話が出来る事も、お祖父さんに一緒になって抗議してくれた事も、僕の考えは間違っていないって思えて嬉しいんだ。兄さん」 人懐っこい笑顔で、そう伝えてくる健次。 「…けんじの事を、以前は祖父に歯向かって馬鹿な奴だって…思ってた、でも、今は勇気ある行動だと思う」 満も本心からそう伝える。 「うん…、兄さん、好きな人でもできた?」 不意に聞いてくる健次。 「……」 満は、けんじのその言葉に…ドキッと胸がなる。 ――好きな人―― そう…好きな人がいる。 でもそれは報われることのない恋で… はたから見たら、子供の遊びのような付き合い…そう思われるだろう。 でも、その遊びの恋に真剣になっていけない、そんな心の束縛は、もうないのだから。 自分の心は自分だけのもの…他人に、祖父に支配されはしない。 本気になればなるほど、最後に傷つくのは自分だと… 絶対に終わりがくるのだと、もう一人の自分が… 以前の祖父に従ってばかりいた自分が警告するけれど… もう、負けない、流されない。好きな人の為に…。 「…けんじが、もし…僕の立場だったとしても、祖父に逆らって生きていた?」 長男だったら、と言う意味で聞いてみる。 「もちろん、僕は聞き分けのない問題児だからね」 くすくすと笑いながら、健次は答え、そっと満を見て言葉を続ける。 「脳外科医の息子だからって、脳外科医になるつもりはないし」 健次はちらっと満を見て続けて話す。 「結婚相手だって自分で探す!家に縛られることが嫌いだから、僕は…勘当されたって好きな事をやりたいって思うよ!」 まっすぐに強く語る弟は、今の満には凄く励みになった。 「…絶対に叶わないことだとしても?」 もう一度、静かに問ってみる満。 「…そうだね、でも…絶対叶わないなんて決めつけない方がいいよ。心の壁ほど厚いものはないと思うから」 健次の言葉…今なら素直に聞ける。 「…そう、思う」 ポツリと頷く満。 「うん、兄さんも一人で抱え込まない方がいいよ、人を信じて相談する事も大切だからね」 弟の方がしっかりした考えを持っている。 「うん…」 「さ、早く書いてご飯食べよう。お祖父さん根に持つし頑固だし、かなわないよね、ある程度は仕方ないかな」 最後に少し愚痴を付け加えて話を終える健次。 弟と話したことで勇気がでた満だった…。

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