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第28話
「えぇ、でも今日は、残れないのよ。カギお願いできるかしら…生徒会長のあなたになら任せられるわ」
役得か、校医はそう信頼していう。
久弥にとっては願ってもないことで…
満と二人きりになれる、とっておきの場所だから…ココは…。
「はい、しっかり戸締まりしておきます」
「頼んだわよ。では、さようなら」
笑顔で会釈して立ち去る先生。
久弥も挨拶を返して入口にカギを閉める。
二人きりの空間を邪魔されないために…。
満は、昏々と眠り続けていて…久弥が髪に触れても全然起きる気配はない。
「ミツル…」
その、綺麗な顔を見つめ…ポツリと呟く久弥。
無防備に眠る姿は…本当に可愛いらしく、このまま家に連れて帰りたいくらいに思う久弥。
初めて本気になった相手が同性だなんて、本当に自分は苦しい恋を選んでしまった。
満も同様に…
将来…
必ず引き裂かれる運命にあるのに…
今ならまだ、最悪なカタチで…満を傷つけず別れられるかもしれない。
身体を重ねていない今なら…まだ。
でも…
そんな言葉さえ言う勇気のない自分、満は自分のことを信じて、精一杯…俺についてきている。
その気持ちを裏切ることなど出来ないから…。
親の期待も…
満の信頼も…
裏切ることができない…嘘つきな自分。
満の手を浅く握りながら久弥は、とりとめのない考えに落ちてゆく…。
二人だけの空間が永遠であるなら…邪魔する者がひとりもいなければ…バカな考えだけど、思わずにはいられない。
そういう不安な心に押されて…大好きな満と別れるなんて考えが起こってしまう。
満は今、自分の心の支えで…失うわけにはいかないのに。
久弥は思い直す。
ならば…そんな迷いが起こらないように、満を深く愛したらいい…。
心も身体も…もう離さないという誓いのもとで…。
眠る満を見つめながらそう強く決意する久弥。
満が眠り続けて、一時間と少し…
時刻は夕方六時をさそうとしていた。
最近は日照時間が長くなり、外は夕暮れだがまだ明るい。
「ん…」
小さく声を漏らして満はようやく目を覚ます。
「あ、目が覚めた?良かった…」
一番に視界に映ったのは久弥の安心した顔だった。
「……」
一瞬満は状況が把握出来ずに、呆然と久弥を見返してしまう。
「大丈夫?よほど眠たかったんだね」
優しくかけられた言葉で、はっと思い出す満…。
「ご、ごめんなさい…僕」
さっき自分は、久弥のキスを受けてそのまま眠ってしまったのだ。
満は恥ずかしさで顔を赤らめながら慌てて謝る。
「…はは、いいんだよ、謝らなくても。ミツルの貴重な寝顔も見れたし」
そう笑いながら言う久弥。
さらに、恥ずかしくなる満。
「…ここは?」
なんとか平静な声で聞いてみる満。
「学校の保健室、はじめ、気を失うように眠ったから心配したよ。今、夕方六時くらいかな」
久弥は丸椅子に座って教えてくれる。
満は照れながら軽く室内を見回して気付く。
「…保健室、まさかここまで運んで」
自分をここまで連れて来てくれたのかと驚き、起き上がって聞く満。
「あぁ、近くだから誰にも見られていない、安心して…」
久弥の落ち着いた言葉にそっと安堵の息をつく満。
「良かった、迷惑かけて…本当にごめんなさい」
「…ミツル、お前は、俺たちの関係が学校や親たちに知られたら…どうなると思う?」
久弥は改まって質問してみる。
「それは大変なコト…ヒサヤをキズつけてしまう」
満は悲しそうな表情で、そう答える。
「俺を?なぜ?」
首を傾げて問う久弥。
「…ヒサヤは、生徒会長だから…僕なんかより、もっと色々、言われたり…思われたりする。学校に居づらくなる…でも、立場上、来なくてはいけなくて…ヒサヤを苦しめてしまう」
満はうつむく。
満の言葉は正しいと思う。
だから絶対に知られてはいけない恋なのだ。
でも…、いつかは知られてしまうかもしれない、お互いの気持ちなど関係なく、周りが俺たちを引き離そうとすることが起こるかもしれない。
だから、これだけは言っておかなくては…。
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