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第29話
「ミツル…もしそうなったら苦しむのは、ミツルも同じこと。でも、その時に…周りに流されないでほしい、負けないって、約束してほしい…」
(そんな状態になっても…俺たちは別れたりしない。気持ちは変わらないと、誓ってほしい…)
こんな事をわざわざ約束させなくても…満が離れていくはずない。
そう思っていても実際は不安でしかたない久弥。
立ち向かうモノは大き過ぎるから…自分自身も負けないように。
「…、約束する。ヒサヤ」
満は優しく微笑み頷いて答える。
「あぁ…ミツル」
久弥も瞳を合わせて微笑み、そして満の身体を抱きしめる。
「愛してる」
胸に秘めた情熱の言葉をそっと耳元で囁きながら。
久弥の囁きが…吐息が…満の体温を、じんわり高め、鼓動が高鳴るのを感じてしまう。
「…ヒサヤ」
「ミツル…俺は凄く弱い人間だから、ミツルがここに居ても、不安で仕方ない。先のことを思うと、お互いに…」
「ヒサ…ヤ?」
「…別れることが、正しい選択なのかもしれない…と、そう頭をよぎったりする」
満を強く抱きしめながら…ぽそっと、躊躇うように言う久弥。
「ヒサヤ!?」
今、話さないといけない…
満を不安にさせるけど、二人にとって気まずい話しでも…目をそらしてはいけない。
そんな気持ちに押されて話し出す久弥。
「今、ミツルには流されないように約束をさせて…こんな事を言う俺こそ信じられないよな…でも、身体が繋がっていない今なら」
身体の温もりを思い出して苦しむ事もない…
満もそう考えていたとしたら、心の中に微かに過った不安は…さらに大きな意味を持つから…。
「…ヒサヤは、後悔…してるの?僕のことを…」
抱きしめられたまま、ポツリと不安気な声で聞く満。
「ミツル?」
久弥は慌てて首を横に振る。
「僕は…後悔なんかしていない。祖父や親になんと言われようと、僕は…ヒサヤが好きだから…別れたくない」
ぎゅっと、満は久弥に抱きつきながら伝える…。
自分の考えなどより、思いがけない満の気持ちを直接聞けて…ドキドキと鼓動が早くなる久弥。
「僕を…抱いてください」
満は…顔を埋め、恥じらうように小声で言う。
「ミツル…」
透き通るような満の言葉…
久弥は言葉を失う。
「ヒサヤが…不安になる気持ち、よく判るから…僕と身体を繋げることで、不安な心を少しでも和らげられるなら…」
こんな…ふしだらなことを願う自分。
久弥にはどう思われるのか、でもそんな事よりも…久弥の心の中に、別れる…という思いがある方が辛かったから…
(僕は…ヒサヤと付き合っていくために、自分を縛っているもの全てへ反抗している…だから…ヒサヤに見捨てられたら、僕の気持ちは行き場を失ってしまう。不安なら僕にもある…いつまでも続く筈はない…そう、思わなくてはならない状況でも、出来るだけ長く付き合っていたい…)
その為なら…許婚の事や逢えない我慢もする。
身体を、委ねて…ヒサヤを繋ぎとめるようなことさえ…してしまう。
卑怯な自分に自信がないから。
久弥はそっと満の額へキスを落とす。
「俺が先に言うべき言葉だよな…不安な気持ちをうち消す為に、ずっとそう思っていたんだ、ミツルを抱きたいと。でも、もしミツルの気持ちが、一線を越えた関係になった時、後悔させる事になったら取り返しがつかないから…本当の気持ちを聞きたいんだ」
「…後悔はしない。今の僕は、ヒサヤがすべてだから…」
こんな言葉が出るほど、満は必死なのだ。
慣れない恋愛に。
そんな満の姿が、愛しくてたまらない久弥、優しく口づけをしてしまう。
「俺も後悔なんかしていないから…ミツルを好きになったこと…出逢えたことに、思いきり感謝してる」
そっと笑顔で言い、久弥はこう付け足す。
「もっと楽に恋愛出来たら…そう考えるけど、俺だけの力じゃ、これだけはどうにもならないから。けれど、大学に行ったら少しは時間が自由になる筈だから…同じ学校を選択してほしい」
満に向かってそう頼む久弥。
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