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第34話《不穏な予感》

そうして、久弥と満が付き合いだして、半年… それ以上が過ぎた。 時の流れから、色々と二人の状況にも変化が見られる。 生徒会長だった久弥も任期を終えて後輩に引き継いで、今は放課後に残ることもなくなった。 受験生の久弥と満だけど、二人とも志望校の大学への合格がほぼ確実となっていた。 あと少しで高校も卒業。 春からは同じ大学へ通う予定だ。 今はその話題がメインな二人。 高校では制限されていたコトも、大学生になれば自由になることも多くなるから。 お互い病院の跡取り息子という立場から、同じ医学部への進学。 久弥は精神科医を、満は脳外科医を目指している。 これからの学校生活に期待しては、大学での計画など話し合っている。 幸せな付き合いはこれからも続くのだと、信じて疑わない二人だった。 秘密の付き合いも長くなると、それなりに気が緩んできたりする。 久弥は最近、危機感が薄れてきたのか、校内の昼間、廊下でも満に声をかけてきたりする。 二人しかいない時に限るけれど。 もし誰かに気付かれたら…と気が気ではない満。 案外アバウトな性格でもある久弥は、大丈夫だよ。と気楽なもの。 しかし、この油断が思わぬ展開の引き金になろうとは、気付かない久弥と満だった。 異変は突然、満に降りかかってきた。 陰湿な方法で。 ある朝、学校ヘ行くと、あるはずの上履きがなかったり、学用品が不明になったりが続き… さらに、自分を罵倒した内容の手紙が下駄箱に毎日入っているようになり、さすがに気分を害する満だったが、この程度のことで動じたりしない満。 無視を続けていたのだが… 今回、下駄箱に投げ入れられた手紙には、無視できない内容のコトが書かれていた。 『日種ヒサヤに近づくな』 走り書きされた文字は性別を特定出来るほどクセもなく、誰の仕業か見当がつかないのだ。 この事を久弥に言おうかどうか迷う満、余計な心配はかけたくないけれど… 久弥と満の繋がりを知る者が確実にいるという事だから。 でも、卒業までそう日数もないから… しばらく久弥に伝えず、様子を見ることにした満。 不安を抱えたまま過ごす満。 けれど、いくら邪魔が入ったり、近づくなと言われても、従う気はない満、今まで通り密会を続ける。 「でも、こんなにうまくことが進んで…少し、恐い気もするよな」 久弥がぽつりと呟く。 「……うん」 静かに頷く満。 今、自分の身に起こっているコト以外はすべて順調。 久弥の許婚とも大学は別れ、久弥と祥子が二人一緒にいる現場を見ることもなくなるから精神的にもかなり楽になる満。 「ヒサヤ…卒業まであと少し。だから、気を抜かないようにしよう。僕は、不安で仕方ない…」 ぽつりと満も久弥に伝える。 こんなにも幸せでいいのだろうか、久弥に愛されて、身近にいることが出来て… それを嫉む者がいてもおかしくない。 一番、久弥の許婚の祥子に、自分は、ひどいことをしているのだから。 隠し続けて… でも、自分たちが付き合っていくためには、秘密にしなくてはならないことばかりだから。 満はそう不安に思いながら俯く。 「ミツル、大丈夫。今までだって色々な困難を乗り越えてきただろ。俺たち、二人が負けなければ…きっと大丈夫だから」 そっと満の肩を寄せ…唇を重ねる。 「……ヒサヤ」 触れた温かさに痛みさえ感じる。 「うん…」 力強く頷く久弥。 そう、悩んでも…自分の気持ちは変わらないのだから、後ろめたい気持ちを持つのは、不安に負けている証拠。 どんな逆風も跳ね返せないと久弥の恋人でいる資格はないから。 放課後の時を久弥と過ごして、そして自宅へと帰る満。 「ただいま帰りました」 広い玄関を通りながら、ぽつりと言う満。 「……」 初めに祖母と目が合ったが、あからさまに無視される。 当然のことなのだ、この髪の色。 満は半年以上、髪を染めていないので、大分、栗色の自毛が目立ってきているから… 親たちはそれを嫌う。 入試の時は、さすがに黒く一時的に染めていたけれど、今は自然体だ。 だから、学校でも目立つ存在になってしまった。 悪い評判が流れて…家族の、世間からの体裁を汚している自分への態度は冷たいものになっていた。 「おかえり、兄さん」 しかし、代わりに弟の健次とは話しをするようになった。

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