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第35話
「ただいま」
同じ高校の一学年に通っている健次。
自分の変化を一番喜んでいるのかもしれない。
満は頷いて挨拶を返す。
「……兄さん、最近…大丈夫?変わったことない?」
不意に健次は聞いてくる。
「…どうして?」
不審に思って聞き返してみる満。
「えっと…その、ね。これが…」
言いにくそうに健次は言葉を出して、何枚か紙切れを見せる。
「二、三日前から下駄箱に入ってて、無視しようと思ってたんだけど…」
困ったふうに言う健次。
それを見てみると満を関係づけて、健次にまで悪口のような手紙が書かれていた。
自分だけでなく、健次にまで…
そして、最後の一枚には、このような内容のことが走り書かれている。
『お前の兄貴は日種久弥をつけまわしている。すぐ止めさせないと証拠写真を家に送りつけてやる』
そう書かれていた。
「知らせておいた方がいいと思って、日種久弥先輩って、元生徒会長だった人だよね…なんで兄さんと関係づけてるんだろう?」
健次の疑問には答えることができない満。
「……迷惑をかけてしまっているな、ごめん」
「ううん、僕は構わないんだけど、兄さんがもっと大変な目にあってるんじゃないかって思って…」
心配そうに聞いてくる健次。
「僕は、大丈夫…」
けれど、もしここに書いてあることが本当なら。
証拠写真…
自分の家にならまだしも、久弥の家にそんな写真を送りつけられては、迷惑がかかってしまう。
内容次第では、僕たちの付き合いにさえ支障をきたすかもしれないから。
「…兄さん?」
その紙切れを見つめ、動きを止めた満を見て、健次は名前を呼ぶが。
「……誰が」
こんなことをするのか、一番可能性があるのは…久弥の許婚の祥子。
けれど、彼女の仕業だという証拠はないから。
「……そこに書いてあること、本当なの?兄さん」
あまりに真剣に考え込んでいる兄に、まさかと思いながら聞く健次。
「違う、僕はヒサヤをつけまわしたりしない」
パッと顔を上げて答える満。
思わず言ってしまう、いつも呼んでいるなまえ。
「…ヒサヤ?」
兄が、他人の名前を呼び捨てにするのを意外だと思って、驚いてオウム返ししてしまう健次。
「……」
満は答えようがなくて、困ったような微妙な表情を浮かべる。
いくら弟だからといって、久弥と付き合っていることは秘密にしなくては。
「えっ…そっか」
その表情さえ、今まで見たことのない満で、驚きっぱなしの健次だった。
健次は少し間をあけて、納得したように頷く。
「……?」
それを見て満は、軽く首を横に傾げる。
「…兄さんが変わったのは日種先輩のおかげなんだね、感謝しなきゃ…」
にっこり笑って、それ以上聞かず、健次は囁く。
「ケンジ、また迷惑をかけるかもしれないけど…」
満は、そう微笑んでくれる健次に少し申し訳なさそうに伝える。
「いいんだよ。兄さんが思うようにしたら、僕も力になるしね」
相変わらず優しい健次。
健次との会話を終えて、自室に戻る満。
「…筆跡が違う」
改めて、健次からもらった手紙と自分の下駄箱に入っていた紙を見比べてみると、少しだけだが筆跡に違いが見られる。
犯人は一人だけじゃないのか、ますます分からなくなる満。
(明日、ヒサヤに相談しようか…写真を撮られているとしたら、ヒサヤに話して、少し距離を置いて様子を見るのが一番いい方法だと思うけど…)
そう満は深く、ため息をつく。
明くる日の朝。
いつも早めに登校している満。
下駄箱にはまだなにも入っていなかった。
一年の健次の下駄箱も覗いてみるけれど、不快に思う手紙は入っていない。
いつも帰りに入っているのだ。
手紙を入れる所を押さえれば、犯人が分かるのに…
しかし、ずっと見張っておく訳にもいかないから。
「……!」
考えながら歩いていると、不意に後ろからつけられているような感じがして振り返る満。
「……?」
確かめたけれど、後ろには誰もいなかった。
(…気のせいか)
と思って教室へ向かうが、どうしても気になって、少し遠回りして行こうと進路を変える満。
後ろに人の気配がするけれど、周りに誰もいない。
なんだか、少し恐ろしくなって早足で階段の方へ行き、上がったところで振り返り隠れて様子を伺う。
そこへ…。
トントンと軽く満の肩を叩く人が。
「ッ!?」
満はかなり驚いて、ビクッ!と身体をこわばらせる。
「…ど、どうした?ミツル」
声をかけずに、ジェスチャーだけで通り過ぎようと思っていた久弥だが、満のあまりの怯えた姿を見て声をかけてしまう。
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