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第37話
「後者だったら、やっかいだよな。一体、誰が…」
考え込む久弥。
「…もう、時間が」
あまりない事を伝える満、授業が始まってしまう。
「あぁ、そうだな。取り敢えず犯人を見つけないかぎり疑心暗鬼にも陥りやすいし、大事をとって、校内で合うのはしばらく見合わせようか、そのかわり、放課後、いつもの橋の下で会おう、二人で考えよう」
そう久弥は伝えて満の頬に触れる。
「はい…」
こくんと頷く満。
「ミツル、がんばろう。この問題も早くけりをつけて、春からは新しい大学生活が待っているんだから」
優しく、トントンと背をさすって、微笑む久弥。落ち込まないで、と満を勇気づける。
「うん…」
満は、不安に押し潰されそうな気持ちを久弥の言葉に助けられる。
久弥がいてくれたら、どんな逆風にも立ち向かえる。
久弥は自分のすべてだから。
そう、固く思う満。
満は久弥との話しを終えて、時間差をかけて生徒会室から出て、自分の教室へ入る。
まだ、先生は来ていない。
ふっと、満は教室の雰囲気がいつもと違う事に気がつく。
教室の…
クラスの生徒たちが、自分の方を見て、ヒソヒソ噂話をしている。
その目は、奇異の者をみるような…心地悪いものだ。
視線を向けると、すかさず逸らされる。
いつも、自分の存在などクラスで無に等しかったのに。
なぜか、注目されている。
満は心許ない思いで自分の机へと足を進める。
「っ!」
机の真ん中に白黒コピーされた紙が貼り付けてあった。
「これは…」
手に取って読んでみると…そこには驚くべきことが書かれていた。
『元生徒会長の日種久弥と三年七組楠木満は付き合っている!』
と、大判文字で書かれていて、その下には、今まで久弥と密会場所にしていた音楽室や保健室などの場所が羅列を追うように書き記されていた。
あまりに驚愕する内容のものだったので、そのまま固まってしまう満。
密会場所と書かれた中には、先ほど久弥と会っていた『生徒会室』も含まれており。
さらに、校外の密会場所、『橋の下』も詳しく載っていた。
「……っ」
ふと周りを見ると、半数以上の者がこちらを見て、ニヤニヤ笑っている。
満はゾッと思う。
その者たちの手にも自分が持っている紙と同じものを所持していたから。
まさか、全校生徒に…?
そう疑うと、いてもたってもいられなくて、教室を飛び出して隣のクラスの様子を覗き見る。
「……」
幸い他のクラスへバラまかれていないようで、全校生徒に知られた訳ではなかった事に少しだけ安堵する満。
重い気持ちで再び教室に戻る。
意を決して、ひとりのクラスメイトに話かける。
「…誰が、こんなものを」
ぽつりと聞く満。
「さぁ、来たら机の上にあったから…」
相手は満をさげずんだ目で答える。
満は、それ以上聞けなくて自分の席に戻る。
「……」
例え、ビラをこのクラスだけに配られているとしても、全校に広まるのは時間の問題。
今日、久弥と会う約束をしている橋の下も、みんなに知られていることになる。
密会しているところを見られるのは避けなくては…
なんとかして、久弥に伝えないと。
でも、不用意に久弥のクラスの前をうろつく訳にもいかない。
さっき校内で会わないと決めたばかりだから。
満はクラスの様々な噂を耳にしながら、学校での一日を過ごした。
放課後になるまで、やはり、久弥には会うことが出来なくて、約束の場所へ行けないことを伝えることが出来ないまま…どうすればいいのか、ひとり悩んでいた。
満は仕方なく帰りはじめる。
下駄箱を開けると、やはり悪口の書いてある手紙が何枚か入っていた。
それに一通り目を通して、くしゃっと潰してごみ箱へ捨てる。
そこへ…
「ちょっと、いいかしら?」
その満に、後ろから声をかける女子生徒。
「…っ!」
満は驚いて振り返る。
それは、久弥の許婚の祥子だったのだ。
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