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第39話
今日は久弥と橋の下で、会う約束をしているのだけれど、祥子がいるのだから到底いけない。
それでなくとも、写真を撮られたりしているのだ。
もう二度と、あの場所で逢うことは出来ない。そう考えると、満の気持ちは沈んでしまう。
気は重いが、満は祥子を連れ家の前にやってくる。
「ちゃんと親がいるんでしょうね?」
祥子は無言の満に、つっかかるように聞く。
満は静かに頷く。
今日は、いつも居る祖父と祖母が旅行に行っているので、家に父親が帰っているはずだ。
病院に呼び出されていないかぎり居る様子だったので、祥子を連れてきた。
父より厳しい祖父に直接知らせるのは嫌だったので丁度よいと思ったのだ。
言い分は違っても、自分は祥子を欺いていたのは確かなのだから。
祥子の前で制裁を受けるのは当然のことだと思う満。
先に満は、父がいるか確認して、父の部屋へと案内する。
「何だ!?」
突然、女性を連れてきた満に驚き、父は息子と祥子を交互に見る。
「はじめまして、安心してください、私は息子さんとは何の関係もありませんから」
口を開いたのは、やはり祥子だった。
強気な態度の祥子に、少々面食らっていた満の父だが。
「お前は?何の用だ」
取り敢えず問う。
「名前も名乗らず申し訳ありません、私…息子さんと同じ高校に通う星波祥子と言うものです。今日こちらに失礼させていただいたのは、息子さんをもう一度しつけ直していただきたくて来ました」
あらたまって祥子は言葉を出す。
「は?ミツル!」
いきなり何だ、と満を睨む父。
「……」
答えようがなく黙る満。
「息子さんから何も話しを聞いていないようなので、私から話させていただきます」
そう、おくびなく言うと祥子は、父の机に近づいていき、ポケットから先ほど見せられたヒサヤとの写真を父の前へ、叩くように差し出す。
「……?」
いぶかしく見る父。
「こちらは、私の彼氏で、将来結婚を約束された相手なんです。隣に写っているのは、あなたの息子さんですよね」
父をまっすぐ見て、写真をさしながら言う祥子。
祥子が出した写真は、久弥と満が多少近づいているものの、会話をかわしているだけにすぎない写真。
友達同士が話していると言い通せば、出来そうなものだ。
「そうだが?これがどうかしたか」
少し不機嫌な調子で言う父。
「あなたの息子が、私の彼に言い寄って手を出そうとしているんですよ!親として、何か言い分はないんですか?」
祥子も少しイラついたように父に言い返す。
父は、息をついて。
「…ただ、話しているだけだろう。被害妄想を押し付けられても困る。帰ってくれ、忙しいんだ」
まったく聞く耳もたずの父。
「なら、この写真を見てください、これがただの会話だけだと言えるのですか!?」
それを見て祥子は鞄から、もう一枚写真を取り出し、わざわざ満に見えるように流し父の机の上に出す。
「……」
そこには、橋の下で久弥と満が、口づけを交わす光景がおさめられていた。
父は軽く顔をしかめる。
黙ってしまった満の父に、追い討ちをかけるように言葉を出す祥子。
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