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第43話
「……」
満はもう祥子と話す気になれなくて黙ったまま歩いていた。
靴を履き変えて外に出る。
待ち合わせ場所が見えてきて。
「まだきてないみたいね、私、向こうで座ってるから」
焼却炉裏を一通り見渡して久弥の不在を確認すると、祥子はさっさと奥の段に座ってしまう。
しばらく、久弥の来そうな方向を見つめながら待っている満。
逢いたいのだけど…ここに姿を現して欲しくない。
そんな矛盾した考えが頭の中に去来して…祥子の思惑が分からないから余計に不安になる。
逃げ出したいけど、出来そうにない。
この状況で祥子と久弥を二人きりになんて、したくないから。
少し俯いていた満。
不意に…、トットッと早めの足音が聞こえたと思って目を向けると、久弥がいつものように近付いてくるところ。
昨日の出来事やこれから起こる出来事など知る由もなく。
少し遠くから小走りに満に声をかけてくる久弥。
「ミツル、昨日は…。!?ミツル?どうしたんだ、その顔のキズっ!」
不安そうな満の顔の、左口角と周りの内出血のアトに気付いて、すかさず聞く久弥。
「……」
満が答えに詰まっていると、久弥は満の至近距離にきて片手で軽くキズに触れる。
「…痛かっただろう」
久弥の優しい声に、今にも涙が出そうなくらい胸がしめつけられる満。
目の前にいるヒトにすがりつきたい気持ちを唇を噛んで抑える。
そんな感傷に浸る暇さえ与えないというように…冷たい声は満の後ろから放たれた。
「遊びは、そこまでよ。…ヒサヤ」
冷徹とも言えるようなコトバ。
その声を聞いた途端、久弥の肩がビクッと震えたのを満は間近でみた。
「……し、しょうこ?」
信じられないと言うような擦れた声で名前を呼ぶ久弥。
二、三歩下がって満から離れる。
「えぇ、気付かれてないとでも思っていた?馬鹿ね…」
クスッと不敵に笑う祥子。
「……」
言葉をなくしている久弥と満を見据える祥子。
満を挟んで久弥の対極な位置から自信に満ちた声で久弥を呼ぶ。
「ヒサヤ、彼から離れてこちらに来なさい、まったく、こんな事お父さまとお母さまが知ったらどう思われるのかしらね」
ため息をつくように祥子は言葉にする。
「…祥子、俺は…」
親のことを出されると本当に困る久弥、信じられない気持ちと後ろめたい気持ち、そして、満を言葉だけだとしても、傷つけてしまわなければならない状況に身体が強張る。
「ヒサヤ!」
なかなか近付かない久弥をもう一度呼ぶ祥子。
仕方なく久弥は祥子のもとへ歩みだす。
満とすれ違う時、一瞬だけ瞳が重なる。
『ごめんなさい』
声には出さなかったが、咄嗟に謝りの言葉が満の唇を動かす。
こんなことになってしまって、久弥を苦しめていることが辛かったのだ。
そんな健気な姿を見てしまい…
久弥は、よほど満を抱きしめて、『本当に好きなのはミツルだ!』と叫びたいけれど。
それをしてしまえるほど、代償は小さくはないから…
久弥は満のことが好き。
でも、自分の家は祥子を失うわけにはいかない。
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