45 / 72

第45話《あいたい》

あの日以来――。 久弥はむやみに満のいる教室に近づけなくなり、学校で満の姿を見つけることが難しくなってしまう。 まったく連絡のとれなくなった満にどうしても会いたくて、祥子の目を盗んで、放課後、教室に行き、そっと満の机の中に手紙を忍ばせる。 しかし、それさえも祥子の協力者である取巻きが内容を盗み見て、祥子にそのことを伝える。 久弥の行動はすべて、祥子に筒抜けなのであった。 祥子はその事を知ると、呆れたように言葉をだした。 「本当、ヒサヤの癖の悪さには呆れる。少しは懲りたかと思ったのに…ま、いいわ、ヒサヤが動けば動くほど相手が傷つくことになるんだから、それに気付くまで好きにしたらいいのよ」 取巻きたちに、くすくす笑いながら言い、続けて。 「今回もきっちり利用させてもらいましょう。ヒサヤが後悔して、今度こそ身動き取れなくなるように」 不幸を楽しむように嘲笑う祥子だった。 満はあれから憂鬱に思いながら残り少ない高校生活を過ごしていた。 久弥から、いつも優しい言葉しか聞いていなかったから、あの日、言われた言葉は満の心を痛く貫いたけれど… 状況が状況だったから、と自分に言い聞かせて久弥を信じる満。 大学生になれば、久弥と同じ大学に通えるようになれば、今の苦しみから解放される筈だから…あと少しの辛抱。 満はその日を夢見て我慢していた。 そんなある日の朝。 満の机の中に、久弥からの手紙が入っているのに気付く。 内容は――。 『ミツル、どうしても直接会って話がしたい。夕方六時、二丁目の神社の松の木の前で。先日は酷い事を言って本当にごめん。ヒサヤ』 短い文だったけれど、あれ以来久弥と全く意思疎通が出来ていなかったので、久弥からの気持ちが凄く嬉しくて、その久弥の筆跡の手紙でようやく満の顔に微かに笑みが戻る。 けれど、久弥に会うのは満も悩みに悩んだ、祥子の存在が気になって。 下校時間まで迷っていたけれど、久弥からの呼び出し、やっと逢えるチャンスだから、行かずにいられはしない満。 リスクは感じていたけれど… 満の頭の中は久弥と話がしたいという思いでいっぱいだった。 満は一旦家に帰って、私服に着替えて時間より少し早めに久弥に逢える筈の場所へと向かっていく。 その頃。 久弥は、いつものように祥子を家まで送っていた。 祥子を家に送り届けて、それから満に逢いに行くつもりなのだ。 「…あぁ」 祥子の言葉に相槌をうちながら、考えているのは満の事。 あれだけ酷いことを言ってしまったのだから、満は来てくれないかもしれない。 それでも、満に直接会って満に触れて、気持ちを伝えないと一生後悔する。 そんな危機感にとらわれている久弥。 「ちょっとヒサヤ?私の話を聞いてるの?そう。今日ね、お夕食うちに食べに来て頂戴」 唐突に言い出す祥子。 「えッ?」 「前々から、お父様にヒサヤを呼ぶように言われていたの、今日はお父様がお休みの日だから、丁度いいと思って。いいわよね」 「きっ、今日は…」 言葉に詰まりながらヒサヤは断ろうとする。 今日は満と逢う約束をしているのだから。 「あら、用事なの?父と会う以上に大切な用事って何かしら?」 祥子は久弥に言葉を与える隙をみせず、わざとらしくそんなふうに問う。 「……出掛ける用があるから」 久弥は負けず言葉を出すが…。 「そう、なら私もいくわ。その後から一緒に家に来てくれるわね」 余裕の笑みを浮かべる祥子。 「……」 そんな事をされるのは余計困る。答えに詰まってしまう久弥。 「どうするの?」 軽く聞きながら祥子は… (楠ミツルの所には絶対行かせないから…) そういう心中だった。 久弥は祥子をまく方法を考えるけれど、久弥の思考など、お見通しな祥子。 いくら頑張ったとしても結局丸め込まれてしまう。 祥子を連れ満に会いにいく訳にはいかない。 久弥は祥子の家で食事をすることを選ぶしかなかった。 久弥は満が先日の事を怒っていて今日呼び出しに応じず、来ないで欲しい。 そんな勝手な気持ちにすがるしかなかった。 満が来ていたら…また、裏切ってしまうことになるから。 しかし、久弥のそんな願いと裏腹に、満は呼び出された神社で信じた人物が来るのをひたすら待っていた。 時計を持ってきていなかったので、正確な時間は分からなかったけれど、だんだん日が暮れてきて、約束の時間が過ぎてしまっていることは満にも認識できた。 けれど、帰るタイミングを掴めなくて。 (もう少ししたら、ヒサヤは来てくれるかも) そう思って、心細さを押し隠して待つ。 ふと、満は後ろから近づいてくる足音に気付いて、久弥だろうかと振り返る。

ともだちにシェアしよう!