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第49話

「ッ、分かったから、寄るなッ!」 恐怖心から声を震わせて言い、大人しく満にカメラを渡す。 「ッ!」 「待っ!」 渡すと同時に男子は後退り、満の制止も聞かず逃げ出した。 気絶した二人と満が、薄暗い神社に残される。 取り敢えず満は何か着たくて、乱れた呼吸を整えながら、辺りを見て服を探す。 見付けた服は切り刻まれとても着れるようなものではなかった。 仕方なく自分の上着を腰に巻いて、最初に気絶させた男子の方へ近付き、上着を拝借する。 小柄な満にはかなり大きい服だ。 「う……っ」 上着をはぎ取った男子が微かに声を出して意識を回復する。 「……」 満は、カメラからフィルムを抜き取り、目を覚ました男子に近付く。 ぐっと腕を握って逃げられないようにして、満は声をかける。 「これを……」 カメラを渡しながら、 「ッ?」 間近で満を見て男子はビクッと身体をひきつらせる。 「あと、アイツ。連れて帰って」 ノックダウンしたリーダー格の男を指差して伝える満。 「……っ」 すぐに状況が飲み込めない男子だったが、全部で六人いた仲間が今では二人。 しかも、頼りのリーダーは気を失っている。 自分は満に従うしかないと判断して空のカメラを首にかけ、リーダー格の男を背負って、神社の階段を降りていく。 満は、しばらく茫然と立ち尽くしていたが、貧血症状で頭がクラクラしてきたので、神社の建物に上がる石段の裏へと入り込み、しばらく休むことにする。 頭部の出血は治まったものの、頬や爪、そのほかにも打ち身や擦り傷ができ、かなり傷だらけな満。 痛みに耐えながら身を隠す。 それから、どれほど時間が経っただろう。 失意の中、一歩も動けないでいた満。 帰ろうにも乱れたこの姿を曝して家に戻れなかったのだ。 静まり返った境内に、不意に階段をかけ上がるような足音が聞こえてきた。 警戒しながらそれに意識を向ける満。 「っ……は、はァ、はぁッ」 相当、息を切らしているその人物。 満がいる位置からは姿を確認できない。 だが―― 「っ……ミツルっ!?」 聞き慣れた、自分をを呼ぶ声。 声の主は…… 逢いたくて仕方がなかった久弥だった。 やっとのことで、祥子と祥子の父と離れる事が出来て、全力疾走で神社に向かった久弥。 現時刻は、夜九時前。 約束の時間はとっくに過ぎてしまったけれど…… 神社の階段をかけあがり息をきらしながら満の名前を呼ぶ久弥。 その久弥の声を耳にした時、小刻みに震えていた満の身体がビクっと固まる。 心臓の鼓動が……耳に響く。 (――ヒサヤ……) 「ミツルっ」 いないと思っても何度も呼んでしまう久弥。 必死な久弥の声を聞いて、満はすぐにでも返事をして久弥のもとへ行きたかった。 けれど満は、とてもこんな姿を久弥に見せられなくて…… 呼ぶその声に縋りつきたい思いを押し殺して、微動だにできずにいた。 必死に境内中を見回る久弥だが、もう満がこの場にいないと感じて石段を登り、建物の前の小さな木の階段に腰をおろす。 丁度、満が身を隠しているすぐ上だった。 必死になったせいで汗びっしょりになってしまった久弥、今だに呼吸数は早い。 「……ミツル、ごめん」 また裏切ってしまった。 その思いが謝罪の言葉を紡がせる。 「……どうして、こんなことに。ミツル、逢いたい……逢いたいだけなのに……」 ふって湧くのは後悔と自責の念だけ。 そんな辛そうな久弥の想いを間近かで聞いてしまい。 「――ヒサヤ」 いたたまれなくなって、その名前を呟いてしまう。 「っ!?ミツル?」 その声を逃すはずのない久弥。 立ち上がり、懐中電灯の明かりを声のした方へ近付ける。 「来ないでッ!」 聞いたこともないような満の叫び声にも似た制止の声。 「……ミツル、なぜ?」 その声に一瞬躊躇した久弥だが、心配であるとともに満の姿を瞳に映したいという気持ちに押され足をすすめてしまう。

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