50 / 72

第50話

「……ッ!?」 蹲る満のその姿に強い衝撃を受ける久弥。 満の姿は、暴行され、怪我を負った乱れた姿だった。 「ど……」 どうした。と言葉にしたつもりが言葉にならなかった。 満の怯えたような辛く悲しい顔を前にしては――。 全身の血の気が引いていくような、酷く喪失感に苛まれる感覚に、言葉が出ない。 「……」 俺は満の微笑んだ顔を最近みていない。 満のその震える肩にそっと手を触れさせる久弥。 満はぎゅっと身体を引いてその手から逃れる。 「ミツル……」 今にも泣き出しそうな弱々しい声で満はこう伝える。 「……僕はもう、ヒサヤに触れてもらえる、資格がない」 満は自分が久弥以外の人間に裸体を曝してしまったこと、何もされていない、そう思ってはいるけれど……気を失っていて記憶がない部分があること。 それが満の胸を苦しめる。 そんな満の言葉は久弥の胸に痛く突き刺さる。 「誰が、誰がこんなことを……」 ようやく口に出た言葉には怒りの感情。 そして逃げる満をぐっと腕の中に抱き寄せて、久弥はこう囁く。 「……俺は、どうしたら、ミツルを守ることが出来たんだ?っ、畜生ッ!」 本当に愛している者を傷つけて、守る事も出来ない自分。 「ううん、守らなくていい、久弥の気持ちがあれば、僕は……平気だから」 そんなに気負わないで欲しい。 「ミツル……」 名前を囁いて、抱きしめたまま、その健気な言葉を聞く久弥。 「……。あたたかい」 ぽそっと言葉にする。 抱きしめられ久弥の温もりに、久しぶりに触れたような気持ちになる満。 「……ミツル。今日、家に泊まってほしい」 満を抱きしめ、そっと言葉にする久弥。 「……えっ?」 久弥の思わぬ言葉に、満は驚く。 久弥のトコに?今まで家に近づけさせてもらえなかった。 (僕の存在はヒサヤの家に知られる訳にはいかなかったから) 「こんなに怪我をして、その姿では自宅に戻れないだろ」 満の頬にこびり付いて固まっている血に触れていう。 満は首を横に振り。 「……駄目。それは、ヒサヤに迷惑がかかるから」 こんな最悪な姿で、久弥の家の敷居をまたぐなど……できない。 そう拒否する満。 「俺は……ミツルを傷つけてばかりだから、その償いに、なるかわからないけれど。いつもは出来なかった朝までふたり一緒にいることを、手当てして……ミツルの願い、気持ち、我儘をもっと聞きたい」 久弥はそっと頬を寄せて、優しく囁く。 「ヒサヤ……」 複雑に聞く満。 満は、久弥の言葉を嬉しく思うけれど、返事に詰まっていると。 「俺……もう、今日はミツルと離れたくないんだ」 ぽそっと耳もとで囁く久弥。 「……」 大好きな人からそうまっすぐ必要とされ、その気持ちを受けて顔をあからめてしまう満。 自分だって、ずっと一緒に居たい、手の届く位置で久弥を捕まえていたい。

ともだちにシェアしよう!