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第50話
「……ッ!?」
蹲る満のその姿に強い衝撃を受ける久弥。
満の姿は、暴行され、怪我を負った乱れた姿だった。
「ど……」
どうした。と言葉にしたつもりが言葉にならなかった。
満の怯えたような辛く悲しい顔を前にしては――。
全身の血の気が引いていくような、酷く喪失感に苛まれる感覚に、言葉が出ない。
「……」
俺は満の微笑んだ顔を最近みていない。
満のその震える肩にそっと手を触れさせる久弥。
満はぎゅっと身体を引いてその手から逃れる。
「ミツル……」
今にも泣き出しそうな弱々しい声で満はこう伝える。
「……僕はもう、ヒサヤに触れてもらえる、資格がない」
満は自分が久弥以外の人間に裸体を曝してしまったこと、何もされていない、そう思ってはいるけれど……気を失っていて記憶がない部分があること。
それが満の胸を苦しめる。
そんな満の言葉は久弥の胸に痛く突き刺さる。
「誰が、誰がこんなことを……」
ようやく口に出た言葉には怒りの感情。
そして逃げる満をぐっと腕の中に抱き寄せて、久弥はこう囁く。
「……俺は、どうしたら、ミツルを守ることが出来たんだ?っ、畜生ッ!」
本当に愛している者を傷つけて、守る事も出来ない自分。
「ううん、守らなくていい、久弥の気持ちがあれば、僕は……平気だから」
そんなに気負わないで欲しい。
「ミツル……」
名前を囁いて、抱きしめたまま、その健気な言葉を聞く久弥。
「……。あたたかい」
ぽそっと言葉にする。
抱きしめられ久弥の温もりに、久しぶりに触れたような気持ちになる満。
「……ミツル。今日、家に泊まってほしい」
満を抱きしめ、そっと言葉にする久弥。
「……えっ?」
久弥の思わぬ言葉に、満は驚く。
久弥のトコに?今まで家に近づけさせてもらえなかった。
(僕の存在はヒサヤの家に知られる訳にはいかなかったから)
「こんなに怪我をして、その姿では自宅に戻れないだろ」
満の頬にこびり付いて固まっている血に触れていう。
満は首を横に振り。
「……駄目。それは、ヒサヤに迷惑がかかるから」
こんな最悪な姿で、久弥の家の敷居をまたぐなど……できない。
そう拒否する満。
「俺は……ミツルを傷つけてばかりだから、その償いに、なるかわからないけれど。いつもは出来なかった朝までふたり一緒にいることを、手当てして……ミツルの願い、気持ち、我儘をもっと聞きたい」
久弥はそっと頬を寄せて、優しく囁く。
「ヒサヤ……」
複雑に聞く満。
満は、久弥の言葉を嬉しく思うけれど、返事に詰まっていると。
「俺……もう、今日はミツルと離れたくないんだ」
ぽそっと耳もとで囁く久弥。
「……」
大好きな人からそうまっすぐ必要とされ、その気持ちを受けて顔をあからめてしまう満。
自分だって、ずっと一緒に居たい、手の届く位置で久弥を捕まえていたい。
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