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第52話《約束の時》
それから久弥と満は、しばらくして母親に見つからないように風呂場へ移動する。
「一応、俺の服着て。母さんの部屋からは遠いから安心してな」
「……はい」
初めて久弥と入るお風呂。
やはり緊張してしまう。
久弥は優しく声をかけて誘導する。
「硬くならなくていいよ」
「う、ん……」
「……。一緒に入りたくなかったら、無理しなくていいけど」
伏せた感じの満の様子を見てそっと聞いてしまう久弥。
「ち、違う…あの」
満はちょっと慌てた様子で久弥の言葉を否定する。
「ん?」
久弥は自分の服のボタンを外すのを止め、満の言葉を待つ。
「……こんな、明るい場所は初めてだから」
久弥に身体を見せたことは何度もあるけれど、いつも薄明かりの中や夕暮れ時で暗かった。
ここは満の羞恥心をくすぐるには充分な環境だから。
「ミツル、俺は嬉しいけど?」
恥じらう満が愛しくてやわらかく抱き寄せて頬に唇を寄せる。
「……うん。傍にいるだけで、こんなにも胸がどきどきするヒト……ヒサヤだけ」
満のささやかだけど、熱い言葉に、心が高鳴る久弥。
「……俺も」
満が着ている他人の物の上着を脱がし取る。
「……ヒサヤ!?」
驚く満に。
「脱げないなら、俺が」
そう言葉にすると、驚いている満を見つめながら腰に巻いているボロボロの服も剥ぎ取ってしまう。
華奢で色白の綺麗な身体。
今日はそれにややアザが見られる。
六人の男たちと格闘したために出来た傷。
「痛い?」
全裸になった満の腰に大きめのタオルを巻いてやりながら、満の傷に触れていう久弥。
「……ううん」
久弥の強引な行動に、少し面食らってしまう満だったが、緩く首を振る。
「……そっか。抱きしめても痛くない?」
続けてそんな質問をする久弥。
「…うん。ヒサヤの好きなようにして。それが、僕のしたいことだから」
なんだか久弥のしたいことが伝わったような気がして、満は最初から全部許す答をぽつりと返す。
「はは、ミツル……」
久弥は満の言葉を聞いて、軽く笑うと、そっと身体を寄せて唇を交わす。
久弥からのキスは、柔らかく何度も唇に触れたあと、口腔内へ、やや激しく絡み合う。
「……んっ」
熱い口付けに小さく声を漏らす満。
「……ミツルとこうするのは、久しぶりな気がする」
唇を離しそう囁く。
「いろいろ、あったから」
祥子が絡んでくることで、お互いに辛い思いを沢山したから。
「そうだ…な」
「ヒサヤ、入ろ」
自責の念を思い起こして動きを止めてしまった久弥の上着を、そっと脱がせながら満は誘う。
「ごめん、風呂行こう」
そんな満の気遣いに、久弥は笑顔を戻して着ているものを脱ぎ、二人寄り添って浴室へと消えていく。
広々とした豪華な浴室…
ミツルはつい言葉をこぼしてしまう。
「…すごい」
「はは、父さんが風呂好きでさ、よく温泉とかもいくんだ」
なにげに話しながら浴室内へ満を案内する。
「……」
「それで、家の一階の風呂には露天がついているんだ」
「一階にも風呂?」
「あぁ、風呂が2つもあるなんて変わってるだろ?」
そう笑いながら答える久弥。
「ううん…羨ましい」
「いつか…一階の風呂もミツルと一緒に入れたらいいな…」
「ヒサヤ…」
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