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第62話
「…違っ、ぼくが。ぼくの…せいで…っ」
久弥を抱き寄せたまま、絞り出すように言葉を紡ぐ満。
「ちが…う」
(決してミツルのせいなんかじゃない)
「痛い…よね、ごめんなさい、ごめんなさい、ヒサヤ」
身体を小刻みに震わせ、首を横に振りながら…謝り続ける満。
「……」
(違う…ミツルは悪くない)
薄れゆく意識を必死に保ちながら思う久弥。
満の思考を止めたい一心で――。
もう……指先さえも動かないと思っていた身体を無理に動かす久弥。
力を無くしていた右腕をゆっくり上げ、満の頬に触れる。
「ひ…さや……」
満の涙を、そっと拭って…その後頭部にゆっくりと手をあてる。
「はぁ、……ミツル」
乱れる呼吸の中、なんとか言葉を続ける。
久弥は、くいっと自分の方に満の顔を寄せる。
「……お前、の…せいじゃ、ない……」
消え入りそうな擦れた言葉を届ける。
「……っ、ヒサっ……」
そう、胸の中に響く優しい言葉。
「……ミツ、ル」
久弥は小刻みに震える手で、さらに満の顔を寄せ、そっと囁く。
「……愛している」
満へ、それだけ伝え……。
久弥は、そっと……くちづけを交わす。
「ヒサ…ヤ」
久弥は、満の瞳を見つめ……、そして、少しだけ微笑んだ。
それから、久弥は、血に染まったまぶたを静かに閉じる。
「……ヒサ、ヤ?…ヒサヤ!?」
「ヒサヤっ!」
満の必死の呼び掛けにも、それきり久弥は反応することは無かった。
間もなく、事故に気付いていた近所の人が呼んでくれた救急車がやってきた。
救急隊員が、ぐったりした久弥を自分の元から奪いとり、担架に乗せ救急車へ。
満も久弥を追うように、一緒に乗り込む。
救急隊員が簡単な事故の内容などを聞いてくるけれど、はっきりと答えることが出来なかった。
救急車は、間もなく総合病院に到着する。
久弥はすぐさま処置室へ運ばれて行き……。
満は震える足で、地面へ降り立つ。
「君は?ケガしてない?大丈夫?」
一人の看護師が声をかけてくる。
久弥の流した血が、衣服や顔についていたから。
「……ヒサヤを、助けて、早く」
自分に構っている暇なんかない。
早く行って、そう思って歩きだそうとした時……
満は極度のストレスからか、不意に意識を失ってしまう。
倒れこんだ満。
これがすべて……夢だったなら、いいのに。
満の脳裏には、久弥との思い出が湧きあがるように思い出される。
初めて出会ったのは学校の図書館。
自分に親しく何回も声をかけてくれた。
生徒会長の久弥……
なかなか心をひらかなかった自分に、いつも優しくて。
久弥と出会ってから沢山の変化があって…ただ一日一日が過ぎていた以前とは違う、楽しい日々。
楽しくて仕方ない思い出の筈なのに。
今は、胸が苦しくて……痛くて……どうしようもないくらい不安で――。
(ヒサヤ……)
「……ミツ」
誰かが呼んでる。ヒサヤ?
「ミツル兄さん!」
「っ!?」
その声に反応してハッと目を覚ます満。
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