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第63話
「大丈夫?兄さん」
顔を覗き込んで心配している人物。
ふたつ違いの弟、健次だった。
満は病院についてすぐ意識を失って診療室のような所で横になっていた。
「ッ!?ヒサヤは?」
がばっと、起きあがり。
まず、一番気になることを聞く満。
「……日種先輩は、処置中だよ」
少し顔を暗めながら。
「危険な状態だって」
小声で呟く。
「……どうして」
今だ情緒不安定なままの満。
ポツリと言葉をだす。
「兄さんこそ、なんでこんなことに巻き込まれた?無断外泊して、お祖父さんもお父さんもカンカンだよ?」
「……」
健次は、満の昨日から今に至るまでの経緯を問い詰めてしまう。
「……」
不意に満の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……兄さん?」
驚いて言葉が続かない健次。
「……僕が、ヒサヤに…会わなければ、こんなことには…ならなかった」
震える声をしぼりだすように、弱々しく言う満。
久弥が目の前で車に撥ねられた。
それが現実に起こった出来事であることだと認識したくなかったが……時が経つうちに嫌でも現実であると分からせられる。
今でも残る。
生温かい感触、久弥の血。
「兄さん……」
健次が呟いた時、後ろから声が聞こえる。
「……何をしていたんだ!お前は!」
厳しい声の正体は父だった。
「……!?」
何故ここに父親が?混乱していて言葉がでない。
「兄さん、ここはウチの病院……」
助け船を出したのは、健次。
なんと救急で運ばれた場所は満の親の病院だった。
「……父さん」
「なぜ、お前は……」
父親が厳しい顔つきのまま問い詰めようとするが……。
「運ばれた人の事を、容態を教えてください!」
満は涙も止まらぬまま、ベッドから飛び起きて父のもとに行き、必死に縋りつく。
「……兄さん」
唇をかんで、不安で仕方なくて、震えている満。
でも、知りたい。はっきりとしたコトを。
「……ミツル、今日の事故は忘れろ、たまたま目の前で起こった事故だ」
「違、……違うんです、ヒサヤは、ヒサヤは僕を庇って、本当は僕が撥ねられていたはずだから……」
父親の言葉に首を振り、涙に詰まりながら必死に伝える満。
「ならば……お前は命拾いしたな、運転手の方は先ほど死亡が確認された。もう一人の青年は……医師が救命処置は続けているが、ナカが思った以上に酷い、出血も多い。今日、明日がヤマだろう」
非情なことを淡々と伝えてくる父親。
「……うそ、だ」
「事実だ……」
満に続けて叱ろうと言葉をだそうとした時。
バン!
「やっぱりッ!」
大きな音をたててドアを開く人物。
「……あなたのせいだったのねッ!」
瞳を真っ赤にして涙のあとが残る顔を怒りに変えて叫ぶ女性。満のよく知る人物。
星波 祥子だ。
「ッ!?」
びくっと身を硬直させてしまう満。
満たちの会話が外にまで響いて、祥子に伝わってしまったのだ。
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