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第66話《哀しい別れ》

数日間、閉じ込められ、外界との関わりを断たれていた満。 唯一、弟の健次が様子を見にきたり、食事を運んできたりするだけ。 孤独感が満を苦しめる。 「……兄さん。ご飯だよ……少しは食べて?何も口にしないと身体壊すから」 ぼーっとする満に、健次は優しく話し掛ける。 満は、活気もなく、あれから食事量が減っていて健次はとても心配していた。 「……ヒサヤに、彼に会いたい」 毎日、呟くように繰り返す満の言葉。 「……兄さん」 それだけは、どんなに願ったとしても叶えられない事。 日種久弥がもう、この世に存在していないという事を、健次は満に伝える勇気がどうしても出なかった。 複雑な表情を残して、言葉に詰まる健次。 「……日種久弥は、その日の内に他界した。もう告別式も済んでいる。十八歳、お前と同い年だったな……惜しい命だ」 いつから居たのか、静かに声をかける。 「父さん!?」 「……? 嘘だ……」 (ヒサヤが他界した……?) 父親の言葉がすぐに理解できず首振る満。 「……ミツル、明日は卒業式だ。もう、頭を切り替えろ。お前は、偶然、事故現場に居合わせたまでだ」 父は満の言葉を制して話し出す。 「日々、事故は起こり、生と死の戦いが続いている。救急医療の現場では、それは日常茶飯事だ、時には、最愛の者や友人が瀕死の状態で運ばれてくることもあるだろう。お前のような、心の弱い人間では助かる命も助からん!そんな者に病院を任せるわけにはいかない、心を強くもて、判ったな!」 父は、それだけ強く言い切り部屋を後にする。 「……」 満は健次の瞳を探るように見る。 「兄さん……」 (ヒサヤは死んでなんかいないよね……) そう、純粋に訴えている瞳だった。 健次は堪らずその瞳から逃げるように視線を外し下を向く。 「……うそ、だ。居たんだ…そこに、笑って、生きてる。死んでなんかいない……ヒサヤ、ヒサヤ?」 虚ろな瞳で誰もいない壁に向かって、死んでしまった人の名を呼ぶ満。 健次は、その姿を見てぞっとする。 「……兄さんッ兄さん!しっかりしてッ!」 両肩を強く揺さ振る健次。 「……」 健次の呼びかけにもはっきりとした反応をかえさない満。 大切な……心の支えであった存在を失って…… 満のなかで、ゆるりと壊れていくものがあった。 健次は、満の近くに居て、それをひしひしと感じてしまう。 卒業式に出席する時さえ、表情なく、連れられるまま人形のように動く満。 久弥の死後。 時を同じくして欠席していた満。 それまでの経緯から、満は学校中で噂になっていた。 久弥と満の関係や久弥の死因など、うるさいほど……。

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