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流れゆく日々 5

「しずー、用意でき――」 今日は二人の『別サービス』最終日。 出勤準備をしている静流の様子を見に来た紫苑が絶句する。 「な、なんちゅうカッコしてんだよっ!」  静流のいつになく挑発的な――体にぴったりフィットしたヘソ出しのカットソーに、ヒップハンガーのフレアーパンツ――服装に、紫苑は憤慨するやら欲情するやら。 「…ヘンかな?」 不安げにきく静流がまたやけに可愛くて、そんな風に感じる自分に余計に腹が立ったりして。 「ヘンではないっ…が、何でたかだか仕事にそんなカッコして行くんだよ」 「約束なんだよ。今日で別サービスやめるでしょ。最後のお客さんが『最後には僕が贈った服を着てくれ』って」 紫苑の表情が曇った。『最後の客』―――。 「静流くん!…やっぱりよく似合う」  そう言って心底嬉しそうに微笑んでいる『最後の客』は、全国を股にかける呉服メーカー最大手、『きものの高杉』の若旦那、高杉伊織。  静流は高杉が好きだった。 他の客とは違っていた。 静流を一人の人間として扱う数少ない客。 彼らをただの排出道具にしか思わない客も多い中、高杉の存在は特別だった。 静流は高杉と居るときは仕事と言う事を忘れていた。 「静流くん、そろそろ…」 高杉の言葉で、二人は奥の部屋に進んだ。 静流は高杉の名を呼び、首に両の腕を絡める。 静流の方からこうして求めるのは高杉だけである。 「静流くんと」 応じるように高杉が腰に手を回す。 「こんなことできるのも、もう今日で終わりなんだね…」 静流は目を閉じて、降りてくる口付けに酔いしれる。 「好きだよ、静流くん…これからもずっと」 そこまで言うと高杉は唇を離し、静流の横に座った。 「君を手に入れるためには金を使うしか方法がないのが、悔しくて情けなかったよ。僕はただ君を愛…」 言葉を遮ってしまうほどの勢いで、突然、静流は高杉に抱きついた。 「静流くん、どうしたの…」 高杉も驚きを隠せない。  高杉と、これが最後。これからはもう、こんなことはない。 「静流くん…愛してる。でももうお金で君を手に入れることもできなくなる――せめて…朝まで一緒にいたい」  また別の部屋から、紫苑が肩で息をしながら這い出てきた。 「あいつ…最後だからって無茶苦茶させくさって…」 何やらブツブツぼやいている。 髪も乱れ、顔色まで良くない。 「あれ?しずまだ?」 無茶苦茶させられた自分より静流の方が遅いことが、少し気に入らない様子。 「静流さんなら朝まで延長です。高杉さん家で」

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