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流れゆく日々 7
「要…今晩泊めて?」
さすがに気まずかった。
今夜、紫苑の待つ部屋に戻る気はしなかった。
要は前々から静流に思いを寄せていたので、すぐにOKしたい気持ちは山々だったが、紫苑の事を考えると恐ろしくてとてもそんなことできないと断った。
が、しかし、今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で『頼むよ…』と言われ、断れる人がいたらお目にかかりたい心境で承諾した。
着物を着たまま要の部屋に通される。
座るスペースをなんとか作りだし、ちょこんと座る。
要は自分の理性が一晩無事に機能するよう、神頼みをした。
まだ死にたくない、と。
「要…なんか作ろうか?」
そこらじゅうに散乱するコンビニの袋、インスタント食品の残骸と思われるパックやカップに見かねて静流が言う。
「とっとんでもないですよ!」
恐縮して断るが、無理に押しかけたせめてもの詫びだと静流はキッチンへと踏みこんだ。
静流の手料理…なんて甘美な響き。
要は思わず口の端からヨダレをたらしかけた。
しかし、できればじっと座っていて欲しかった。
静流のいろんなしぐさ一つ一つが、要の心をかき乱す。
「もうすぐできるから、大き目のお皿を…」
振り返って静流は驚いた。すぐ後ろに要がいた。
「こんな近くで見た事ない…近くで見るともっときれいだ」
「かっ要?お皿…」
「俺…店に入った時から、ずっと静流さんの事好きでした―――でも誰にも言えなくて…静流さんは紫苑の…」
俯いていて顔は見えないが、声が震えている。
泣いているのではないのだろうが、今まで我慢していたものを吐き出しているようにも見える。
「要…ずっと気づいてあげられなくてごめんね…。僕らは自分たちのことしか見えてなかった」
悲しそうな静流の横顔。
違う、そうじゃない。
「やめて…俺、静流さんにそんな顔して欲しくて言ったんじゃないんだ!俺今は静流さんの幸せ見守れるから」
「僕の…幸せ?」
「そう、紫苑…さんとの。俺紫苑さんキライだけど、二人の間には入れない。お互い二人でいるときが一番自然で幸せそうだから。…静流さんの、高杉さんへの態度、俺もおかしいと思ってました。…ただの客に横取りされるぐらいならいっそ俺が…って思ってしまう!けど…俺じゃダメだと思う、高杉でもダメだ。静流さんには紫苑じゃないとダメなんです――」
要に一気にまくし立てられ、静流は無理矢理帰らされた。
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