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流れゆく日々 11
数日後。
いよいよ静流の初出勤の日が来た。
今まであんな職についていたので、朝早く起きる事自体久々だった。
そして、初体験の地下鉄のラッシュ――。
慣れない生活リズムとラッシュにもまれて、静流は先が思いやられていた。
と、その時。
(ひ―――っ!ち、痴漢…?!やめろぉ~っ)
始めお尻を遠慮がちに触っていた手は、静流が抵抗できないのを知るとどんどん図々しく、前にまで手を回してきた。そこまでされて、次の駅で静流は電車を飛び降りた。
まだまだ乗っていなければならない電車が発車して行くのを、虚しいような悔しい気持ちで見送った。
その日は初出勤と言っても契約書を書かされたり、構内の案内をされたりで実際の授業などは無く、4時間ほどで帰る事になった。
朝の痴漢のせいで、せっかくの初出勤が1日中ブルーになってしまった静流がとぼとぼと岐路についていると、百貨店の大きなショーウィンドウに大判のポスターが貼ってあるのが目についた。
デザイナー名以外何も書いていない、シンプルなポスター。
全体にダークな色使いで、モデルの顔も髪に隠れて良く分からない。
そんなポスターがなぜ静流の目にとまったのか。
それは、モデルの顔が、良く知っている顔だったからだ。
全然知らなかった。
あんなにいつも何でもかんでも話してくるあいつが、何も言って来なかった。
僕が反対してるからって…。
「しずーただいまー♪」
いつものように上機嫌で紫苑が帰宅。
一方静流はというと、やはり朝の出来事が忘れられず、素直に出迎えてやる事が出来ない。
そんな静流の様子にはまだ気づかぬ紫苑。
早速今日から貼り出しの例のポスターを自慢げに見せびらかした。
しかし、反応が重い事にようやく気づく。
「しず…もしかして、まだ怒ってる…?」
しょんぼりとする紫苑に我に返り、静流は慌てて否定する。
「あ、違うんだ、今はもう紫苑の仕事認めてるよ、ただちょっと…」
それだけ言うとまた静流はブルーモードに入ってしまった。
「ぬゎぬぃ~~~~~~?!痴漢に遭ったァァ~~~~~~~?!」
事の成り行きを聞いた紫苑は、鬼瓦のような顔になり烈火の如く怒り出した。
「何で声あげなかったんだよっ」
「恥ずかしいじゃないか!男なんだぞ?!」
「んじゃ誰かもわかんねーの?!」
「…うん」
「ちっきっしょォ―――俺の愛しのチェリーくんに気安く触るたぁえー根性しとるやんけっ」
もはや一人で興奮中の紫苑に、静流は付き合う余裕は無かった。
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