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流れゆく日々 13
講師室はごったがえしていた。
10名近い女子生徒に囲まれ、質問攻めに遭っているのは言うまでも無く静流。
「私はここの意味が分からないんですけど…」
静流は落ちこんでいた。
後からこんなに質問されるってことは、教え方がよっぽど悪かったんだろうか…??
「こ、これで一通りの質問は聞いたかな?」
教え方云々よりももっと憂鬱なのは、やっぱり女の子は苦手だと今まさに痛感しているから。早くこの状況から抜け出したい。
そんな静流の願いとは裏腹に、生徒たちは話をどんどん進めてきた。
「ねえ先生、これってアメリカの同性愛者の話ですよね」
今日の演習の英文は神の悪戯か、米国における同性愛者の社会的問題について書かれた文だった。
「やっぱりホモっているんですかね?」
「先生の周りにいますか?」
私立の名門お嬢様校の制服を着た生徒たち。
外の世界など知らないかのよう。
「…よくわかんないけど、そういう人もいるんじゃないかなぁ…」
静流は仕方なく引きつった笑いを浮かべて答える。
「あのさあー」
突如、それまで全く口を開かなかった、一人だけ違う制服――地元の公立高校の――を着た女生徒が話し出した。
「私が思うに!ホモなんてしょせん女の代用にすぎないのよ!要するに攻の男が女の代わりに受の男をいいようにしてるだけだと思うのよね。攻は女が怖いか若しくはモテないかで男にしかそういうことできないのよ!」
このあまりの力説に場は一瞬静まり返ってしまったが、次の瞬間お嬢様方が感嘆の声をあげた。
「はぁ・・・なるほどねー」
「里香そういうこと詳しいもんねぇ」
「そっか、ホモってかわいそーなんだ」
他の講師たちも何事かと伺っている。
「ねえ先生はそう思います?里香の説…」
くるりと向き直った女生徒は驚いた。
先生があまりにも悲壮な顔をしていたから。
「せ、先生?!」
「い、いやぁ、最近の女子校生は過激な事を言うなぁと…」
「やだ先生オジンみたーい」
―――考えたことなかった。「女の代わり」―――
そう言えば、と静流の頭の中に紫苑の言葉の数々が思い浮かんだ。
『しずしずかわいー』
『待ってるわハニー』
『おれ頼れよ!』
『俺が守ってやる』
『お前ってホントはすげー弱くてさ』
・
・
・
僕ってそんなに受々しいのかなぁ…とやや落ちこみながら部屋のドアを開く。
「おおしずおかえりーッ♪」
元気の良い声に出迎えられる。
主人を待ち焦がれていた子犬のように、玄関に走ってくる。
「今日はたまたま早く終わってさぁ~。待ってたよハニー♪」
ぴく。
頭を撫でていた紫苑の手から逃れ、静流は紫苑から離れた。
「しず…?」
「紫苑…紫苑にとって、ぼくって何?」
「はぁ?何言って――」
「女の代わり――なの?」
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