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流れゆく日々 14

 突拍子もない質問に紫苑は慌てた。 だが、言われてみれば、静流が思い出した言葉と同じような物しか思い出せない。 かわいい、 きれい… 「悪い…考えさせて」 思い当たるフシが多すぎる。 だいたい出会った頃は静流のほうが身長も高かったし、体格も今よりがっちりしていた。 紫苑よりずっと大人びていたし…。  翌日になっても、紫苑の返事はない。 もしや、はいそうですとも言えず『考えとく』でお茶を濁されたのでは…と、被害妄想気味の静流。 「そっか!俺のせいか!俺がしずを受々しくさせてしまったんだ!」  突如大声を挙げながら跳ね起きる紫苑。 そして何が何だか分からない静流を抱きしめる。 「でも後悔しねーもん、責任持ってお前守り抜くからな!」 きょとんとしている静流に、一つ一つ言葉を噛み締めるように言う。 「それと、昨日の返事。俺は、何回も言ってっけど男とか女とかカンケーねーの!男だろーと女だろーと、俺はしずじゃねーとダメなの!!しずだから好きなんだ、しず以外の人間はみんなアウトなんだよっ」  寝ぼけ面に平手打ちを食らわされたような衝撃を受けた。 こんなに想われていて、あと何が必要だというのだろう。 「…ごめんね、何わがまま言ってたんだろう」 改めて静流の方から紫苑の首に腕を回す。 「いんだよ、俺が困るぐらいわがまま言ってくれよ。しず…これからもきっといろいろ不安な事とか出てくると思うけど。絶対一人で抱え込むなよ?ちゃんと話そーな」  自分の幼稚な言動が恥ずかしく、またいつのまにか大人びて頼もしくなった紫苑を嬉しくも思い、満面の笑みで応える静流。 「うん。同じ失敗はもう許されないからね」 そんな静流の笑顔が可愛くて、愛おしくてたまらなく、極上の笑顔を浮かべる紫苑。 「そーゆーこと」 この顔見るために生きてるんだよな、二人は心の中で同時に思っていた。

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