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流れゆく日々 16

 1クール終わったらどこかへお出かけする約束をしていた。 当日二人はちょっとオシャレして、新しく先月末に出来た地下のショッピングモールに出かけた。  今話題のスポットということで、すごい人。TVの取材も何組か来ている。 「ちょっとすみませーん」 あきらかに自分たちにかけられた声。二人は振り返る。 「私達『葛ヤン』の取材で、街のおしゃれさんインタビューしてるんですけど…」 声をかけてきたのは今若い子の間で人気のおしゃれデュオ、PATTYの二人。 『葛ヤン』とはストリートファッション番組、とでも定義しておこう。 「ひょっとして…モデルの方じゃないですか?あのキミオイケダの…」 片割れが付け足す。 どうも紫苑の事を知っているらしい。 「あ、うん…」  つい軽く返事してしまった。 PATTYの二人は仕事も忘れてサインだ握手だと大はしゃぎ。 スタッフにたしなめられてようやく本題に。 「え、えーと、今日は偶然あの!キミオイケダのモデルの、―――誰だっけ?」  紫苑は名前を公表していない。 静流には不思議でならなかった。 あんなに目立つ事が大好きで自己主張しまくりの紫苑が、なぜ…? 「あ、お名前聞いていいですか?今後の活動予定は…」 一応取材用の口調で二人が質問する。 「名前は紫苑。活動予定は特にナシ」 実に簡潔に答えた。 「そうですか。予定ないんですか~。お隣の方もかっこいーですね。今日はお友達同志でお買い物ですか?」 その言葉に紫苑がピクリと反応したのを静流は見逃さなかった。 「友達じゃね」 案の定どなり出す紫苑の口を慌ててふさぎ、そうですそうですとコクコク頷く静流。 「――紫苑。何怒ってるんだよ」 そのインタビュー以来紫苑はさっさと歩き、口も聞かない。目も合わさない。 「『友達』で通した事か?ぼくは、モデルとしてスタートしたばかりの紫苑がスキャンダルじみたことになったらダメだと思ったから…」 そこまで静流が言ったとき、先に歩いていた紫苑がゆっくり振り返った。 「お前、モデルとしての俺とお前の俺、どっちの方が好きなんだよ。――どっちが大事なんだよ」 凄みはきかせているが意味不明な質問に、半ば呆れて静流は答えた。 「そんなの…どっちもぼくの好きな紫苑じゃないか」  その言葉が終わるか終わらないかのうちに、紫苑がキレた。 「るせーよ!調子いーことばっか言ってんなよ。うまいこと人の機嫌ばっかとりやがって。本当は何考えてるか全然わかんねー!」 あまりのキレようにあっけにとられたが、静流のほうも腹が立った。 「しっ…紫苑だって、少しは相手の身になるなり思いやりを持つなりしてみたらどうなんだよ…しょっちゅう紫苑に怒鳴られてばかりで、―――その度にどれだけ僕が傷ついてるかわかってるの―――?!」  初めて向けられた、嫌悪の表情。 部屋に戻ってベッドに入ってからも静流はつまらなそうな顔であさってを見ている。 紫苑が誘っても、『気分じゃない』と寝返りを打たれる。 「なんだよ、根に持ってんのかよ…」

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