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流れゆく日々 20
何となく重い気分で静流は帰宅した。
「只今ぁ…」
音も無く部屋に入ると、紫苑が急いで何かを隠した。
「あっ、おかえりしず」
いかにも怪しげな、不必要な愛想。
媚びたようにエヘエヘと笑っている。
「何隠したの?僕にも見せてよ」
そうあからさまに動揺されては、見ようと思っていなくても見たくなってしまう。
静流が意地悪く笑いながら回りこむと、紫苑もより一層必死で隠す。
「あは、つまんねーモンだよ」
「いーだろぉ」
「ダメっ」
「見せてってばぁ」
「しずにはカンケーねーモンだよっ!」
はっ。
勢いにのって言ってはいけないことを言ってしまった。
見る見る静流の表情が曇る。
「…ひど…カンケーないだなんて、そんな…」
ムッとしたと思った静流が今度はよよよとすすり泣き。
紫苑が慌てる。
「あ、ごめんしず、そんなつもりじゃ…」
紫苑があたふたして油断した隙に、舌を出した静流は紫苑の手から何かをもぎ取った。
少し古ぼけた、三人で写った写真が数枚。
「写真…?これ、紫雲さんと紫苑と――」
小学校高学年ぐらいのあどけなく笑う紫苑と、高校生ぐらいの色白で美しい紫雲、そしてもう一人が分からない。
年は紫雲と同じぐらいだろうが、紫雲とは正反対ともいえる、きりりとした鋭い顔つきの、男らしい人物。
「…兄ちゃんの当時のダーリン」
なぜかばつが悪そうに言い捨てる紫苑。
静流は解せない。
「なんでこんな写真隠す必要が…?」
言いかけて、次の写真を見て何となく分かった気がした。
幼い紫苑が男の首にしがみついて紫雲が困っている写真。
その予想が正解だと決定付ける、紫苑の言葉。
「俺の初恋の人―――でもあるんだよっ」
次の写真ではとうとう2ショットになっていた。
男のひざの上に満足そうに座る紫苑と、やさしく包み込む男。
「…で、どうして隠したの?昔の事なんだろ?…過去なんてどうする事も出来ないんだから…大切なのは、今とこれからだよ」
いつになくやさしい静流に体を預けながら、紫苑は複雑な心境だった。
―――『過去のこと』なら、こんなに後ろめたく感じねぇよ…あっきーのあほ。
なんで今更、それも前よりカッコ良くなって俺の前に現れるんだよ―――!
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