61 / 87

流れゆく日々 20

 何となく重い気分で静流は帰宅した。 「只今ぁ…」  音も無く部屋に入ると、紫苑が急いで何かを隠した。 「あっ、おかえりしず」 いかにも怪しげな、不必要な愛想。 媚びたようにエヘエヘと笑っている。 「何隠したの?僕にも見せてよ」 そうあからさまに動揺されては、見ようと思っていなくても見たくなってしまう。  静流が意地悪く笑いながら回りこむと、紫苑もより一層必死で隠す。 「あは、つまんねーモンだよ」 「いーだろぉ」 「ダメっ」 「見せてってばぁ」 「しずにはカンケーねーモンだよっ!」  はっ。 勢いにのって言ってはいけないことを言ってしまった。 見る見る静流の表情が曇る。 「…ひど…カンケーないだなんて、そんな…」 ムッとしたと思った静流が今度はよよよとすすり泣き。 紫苑が慌てる。 「あ、ごめんしず、そんなつもりじゃ…」  紫苑があたふたして油断した隙に、舌を出した静流は紫苑の手から何かをもぎ取った。 少し古ぼけた、三人で写った写真が数枚。 「写真…?これ、紫雲さんと紫苑と――」  小学校高学年ぐらいのあどけなく笑う紫苑と、高校生ぐらいの色白で美しい紫雲、そしてもう一人が分からない。 年は紫雲と同じぐらいだろうが、紫雲とは正反対ともいえる、きりりとした鋭い顔つきの、男らしい人物。 「…兄ちゃんの当時のダーリン」 なぜかばつが悪そうに言い捨てる紫苑。 静流は解せない。 「なんでこんな写真隠す必要が…?」 言いかけて、次の写真を見て何となく分かった気がした。 幼い紫苑が男の首にしがみついて紫雲が困っている写真。 その予想が正解だと決定付ける、紫苑の言葉。 「俺の初恋の人―――でもあるんだよっ」 次の写真ではとうとう2ショットになっていた。 男のひざの上に満足そうに座る紫苑と、やさしく包み込む男。 「…で、どうして隠したの?昔の事なんだろ?…過去なんてどうする事も出来ないんだから…大切なのは、今とこれからだよ」  いつになくやさしい静流に体を預けながら、紫苑は複雑な心境だった。 ―――『過去のこと』なら、こんなに後ろめたく感じねぇよ…あっきーのあほ。 なんで今更、それも前よりカッコ良くなって俺の前に現れるんだよ―――!

ともだちにシェアしよう!